サステナビリティ(持続可能性)の観点から見た人工知能(AI)

2023年12月3日

人工知能 (AI) は、経済/社会/環境面において、ありとあらゆる種類のメリットをもたらす鍵を握っていますが、それと同時に天然資源に対する脅威ともなっています。AIモデルは、莫大な二酸化炭素排出量で既に悪名高いデータセンターにおいて、大量の電力を必要とするサーバでトレーニングされていますが、現在は大量の水を消費していることでも非難を受けています。このAIを巡るトレードオフは、「サステナビリティ(持続可能性)を高めるAI」と「AI自体のサステナビリティ」をどう組み合わせるかにかかっています。

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要旨

AIによる資源の大量消費と環境フットプリントを管理しながら、AIを活用するにはどうしたらよいか

AIモデル/手法は、環境面におけるさまざまな目標の推進に役立ちます。例えば、以下のような目標です。

  • 地球温暖化などの気候変動や天候の変化の傾向を観測し、予測する

  • 廃棄物を管理し、リサイクルのプロセスやオペレーションを最適化する

  • 輸送/移動/ルートの効率を高めて燃費を向上させ、二酸化炭素排出量を削減する

しかしAIのトレーニングを行うデータセンターにおける電力消費量は、以前から米国の全電力消費量の約2%を占めています。これは、床面積当たりで比較すると、一般商用オフィス・ビルでのエネルギー消費量の10~50倍に相当します。ある最近の研究では、ChatGPTには20~50の簡単な質問と回答につき500mlボトル1本分の「水分補給」が必要であると述べられています (GPT-4ではさらに多くの「水分補給」が必要です)。

AI自体を環境に優しいものにすることが、あらゆる持続可能なテクノロジ・プログラムの主要な要素となります。より持続可能なAIを開発するための方法としては、以下の5つがあります。

その1:AIの効率性を人間の脳と同程度にする

  • 効率的な人間の脳と同じように、ネットワーク構造を使用して体系化して学習する「コンポジットAI」の採用を検討する
  • コンポジットAIでは、ナレッジ・グラフ*やコーザル・ネットワーク(Causal Network)、その他の「シンボリック」な手法を使用して、より効率的な方法でさらに幅広いビジネス課題を解決できる

* ナレッジ・グラフ:物理世界とデジタル世界およびそれらの関係に関するナレッジを表す、機械可読形式のデータ構造。ナレッジ・グラフは、グラフ・モデル (ノードとリンクで構成されるネットワーク) に従う

その2:AIを健全に保つ

  • 機械学習中のエネルギー消費量をモニタリングする。そして、改善点が増えなくなり、継続コストを正当化できなくなったらすぐにAIのトレーニングを中止する
  • モデルをトレーニングするためのデータはローカルに格納するが、改善点は中央レベルで共有する。この「フェデレーション型機械学習」のタイプは、電力消費量を削減し、データ・プライバシーを強化できる

  • トレーニング済みのモデルを再利用し、必要に応じてコンテキスト化する

  • エネルギー効率の高いハードウェア/ネットワーク機器を使用する

「このトレードオフは、『サステナビリティを高めるAI』と『AI自体のサステナビリティ』をどう組み合わせるかにかかっています」

その3:適切な場所で、適切なタイミングでAIを実行する

  • AIのワークロードが発生するタイミングと場所を管理する。各地で供給されるエネルギーの炭素集約度 (エネルギー消費当たりの二酸化炭素排出量) は、国/電力公社/時間帯/気象状況/転送契約/燃料供給など、さまざまな要因ごとに異なる
  • データセンターのワークロードについては、クリーン・エネルギーの生産に適した「フォロー・ザ・サン」 (時差のある複数の地域に拠点を設け、24時間体制でサービスを継続する) モデルと、「フォロー・ザ・サン」以外の水の効率化に適したモデルのバランスを取る

  • 関連する二酸化炭素排出量を削減するために、カーボン・トラッキング/予測サービスに加えて、エネルギーを考慮したジョブ・スケジューリングを使用する

その4:クリーン電力をその消費予定場所で新たに購入する

  • 可能であれば、電力購入契約 (PPA) を締結する。もしくは、温室効果ガス排出を削減/相殺する再生可能エネルギー証書 (REC) を調達する。RECの場合は、電気の消費が予定されている地域の送電網に新たに再生可能エネルギーが追加される
  • 今後の議定書に備えておく。PPAやRECは完璧ではなく、常に利用可能というわけでもないため、場所または時間帯ごとに、あるいは両方の組み合わせごとにクリーン電力の詳細な計画の策定を開始する。このタイプの分析は、規制当局から求められる場合があるクリーン電力の戦略を策定するのに役立つ

その5:AIのユースケースを検討する際は、環境への影響を重要な要素として捉える

  • AI戦略の策定時に、ビジネス上のメリットに加えて環境への影響をモデル化する。戦略を進める際に用いるユースケースは、破壊する価値よりも生み出す価値のほうが多くなるものにする
  • 先へ進む前に、既存のAIイニシアティブのリスクとエネルギーを削減する。すなわち、既存のAIイニシアティブのエネルギー効率を高め、知的財産/独自データのリスクを軽減しておく

  • ビジネス価値や環境を損なう可能性があるAIユースケースには投資しないようにする

アナリストによる本リサーチについてのコメント

Kristin Moyer, Distinguished VP Analyst, Gartner

「AIテクノロジが人間の生活と地球にもたらす影響を理解することが、ますます重要になっています。AIを採用する際にサステナビリティを考慮したアプローチを取ることは、AIテクノロジが大きな損失を引き起こすことなく、環境/社会/人間中心のインパクトをもたらす持続可能な目標の達成に貢献できる鍵となります」

重要な3つのポイント

1

生成AIの組み込みを含め、AIの試験的導入への需要が高まる中で、サステナビリティとAI自体のサステナビリティを促進するためにAI利用のトレードオフを考慮することは、ビジネス・リーダーにとっての課題となる


2

AIによる天然資源の使用と気候への影響を抑制するには、AIの開発と利用に対して、可能な限りの効率性と共に慎重な行動が求められる


3

あらゆるAI戦略において、最初から環境への影響を考慮すべきである

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Kristin Moyer
ガートナーのCEO/デジタル・ビジネス・リーダー向けプラクティスを担当するディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト

Gartner Articles

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