「生成AIのハイプ・サイクル」とは何か?どのように活用するか?

激動の状況に対処することが困難な時にこそ、生成AIを巡るハイプ (過熱状態) に惑わされず、企業や組織にとって価値ある技術に目を向け、生成AIに関する新しい視野を広げていくことが重要です。

2025年1月19日更新

生成AIのハイプ・サイクルにより、検討すべきイノベーションを特定

生成AIはハイプにあふれており、それは生成AIをサポートするテクノロジやテクニックの急速な進化の過程においても同様です。ガートナーの予測では、2026年までに、企業の80%以上が生成AIのAPIやモデルを使用して、生成AI対応のアプリケーションを本番環境に展開するようになるとみています。これは2023年の5%未満からの大幅な増加です。

利用可能なテクノロジやテクニックに大きな期待がかけられ、非常に多くの選択肢があることから、AIをDX(デジタル・トランスフォーメーション、デジタル変革)戦略に組み込み、戦略のアップデートを試みるCIOやITリーダーは、将来的にどれが最大のビジネス・インパクトをもたらすのかの判断を求められています。生成AIのハイプ・サイクルは、見込まれる成果を追求すべく、企業および組織のリスク許容度に応じて活用可能なイノベーションを特定する際に利用できます。

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生成AIのハイプ・サイクルとは何ですか?

生成AIテクノロジの成熟度、採用状況評価指標、ビジネス・インパクトをガートナーが図示したものです。これは、CIOやその他のITリーダーが、見込まれる成果を追求すべく、組織のリスク許容度に応じて活用可能な生成AIのイノベーションを特定する際に役立ちます。

生成AIのハイプ・サイクルはどのように活用できますか?

急速に進化する生成AIテクノロジの全体像を体系的に理解し、AI戦略の実行に役立つイノベーションを特定することで、企業および組織の戦略立案に活用することができます。

本記事では、ガートナーのリサーチノート「生成AIのハイプ・サイクル:2024年」*1にて解説されている生成AIの革新的なトレンドを支えるコア・テクノロジについて、その一部をご紹介いたします。ガートナーのサービスをご利用のお客様は、同リサーチノートから詳細をご覧いただけます。

生成AIテクノロジを構成する4つの主要領域

生成AIのコア・テクノロジは、「生成AIモデル」「AIエンジニアリング・ツール」「アプリケーションとユースケース」「イネーブルメント・テクニック/インフラストラクチャ」という4つの主要カテゴリに分類されます。

生成AIモデルという基盤技術から、実際の開発に必要なAIエンジニアリング・ツール、具体的な活用場面を示すアプリケーションとユースケース、そしてこれらを支えるテクニックとインフラまでをそれぞれ説明します。この体系的な整理により、企業および組織が自社のDX(デジタル・トランスフォーメーション、デジタル変革)における生成AIの位置づけを明確にし、投資判断や導入計画を策定する際の指針としてご活用いただけます。

生成AIハイプ・サイクルの領域その1:生成AIモデル

基盤となる技術領域であり、事前学習済みのファウンデーション・モデルやLLM(大規模言語モデル)が中心となっています。これらのモデルは急速に進化を続けており、マルチモーダル対応や会話能力の向上が進んでいます。

  • ファウンデーション・モデル:広範囲にわたるデータセットを用いて「自己教師あり学習」でトレーニングされた、大規模なパラメータ・モデル
  • 組み込みモデル:高次元データ (テキストや画像など) を「ベクトル埋め込み」として表現するために使われる機械学習モデル
  • ドメイン固有の生成AIモデル:特定の業界、ビジネス機能、または関連タスク群のニーズに合わせて最適化されたモデル
  • エッジ生成AI:エッジ上またはエッジ付近でスマートフォン、PC、IoTデバイス、エッジ・サーバに展開される生成AIモデル
  • 汎用人工知能 (汎用AI):人間が実行できるあらゆる知的タスクを遂行可能な機械知能 (現時点では仮説段階)

生成AIハイプ・サイクルの領域その2:AIエンジニアリング・ツール

企業および組織における生成AIの実装と管理を支援するツール群です。特にModelOpsツールの重要性が増しており、複数のモデルを効率的に管理・運用するための環境整備が進んでいます。

  • AI TRiSM:AIのトラスト/リスク/セキュリティ・マネジメント (AI TRiSM) とは、AIのガバナンス、信頼性、公平性、確実性、堅牢性、有効性、データ保護を確保する取り組みのこと
  • 偽情報セキュリティ:偽情報に対処するための一連のテクノロジにより、企業が信頼を見極め、ブランドを保護し、オンライン・プレゼンスを確保できるよう支援する取り組み
  • 生成AIアプリケーション・オーケストレーションのフレームワーク:プロンプト・チェイニング、モデル・チェイニング、外部APIとのインタフェース、データ・ソースからのコンテキスト・データの取得、さまざまなモデル・リクエストをまたいだステートフルネス (またはメモリ) の維持を可能にする抽象化レイヤを提供するフレームワーク
  • GraphRAG:検索拡張生成 (RAG) システムの正確性、信頼性、説明可能性を改善する手法。このアプローチはナレッジ・グラフ (KG) を使用して、KGからファクトを引き出すことで直接的に、あるいは他の検索方法を最適化することで間接的に、検索の再現率 (recall) と適合率 (precision) を改善する

生成AIハイプ・サイクルの領域その3:アプリケーションとユースケース

実際の業務への適用事例が急速に拡大しています。特に顧客サービス、IT部門、マーケティング分野での活用が先行しており、エンタプライズ・アプリケーションへの組み込みも進んでいます。

  • 生成AI対応仮想アシスタント:大規模言語モデル (LLM) を活用して、従来の会話型AIテクノロジでは得られなかった機能を提供する新世代の仮想アシスタント (VA)
  • 生成AI対応アプリケーション:ユーザー・エクスペリエンス (UX) とタスク拡張のために、生成AIを使用して、ユーザーが目指す成果の達成を加速および支援するテクノロジ
  • AI拡張型ソフトウェア・エンジニアリング:ソフトウェア開発ライフサイクル全体でソフトウェア・エンジニアを支援するためにAIテクノロジを応用したもの。これには、アプリケーションの作成、検証、セキュリティ確保、展開、保守が含まれる
  • 自律エージェント:人間の介入なしで、定義された目標を達成する複合システムのこと。さまざまなAI手法を利用して、環境におけるパターンを識別し、意思決定を行い、一連のアクションを実行し、アウトプットを生成する
  • シンセティック (合成) データ:現実世界を直接観察することによって得られたデータではなく、人工的に生成されたデータの一種。データの匿名化など、さまざまなユースケースにおいて実データの代替として使用される

生成AIハイプ・サイクルの領域その4:イネーブルメント・テクニック/インフラストラクチャ

生成AIは、いくつかの既存のAIテクニックを基盤としています。その一方で、強力なスーパーコンピュータを含む専用インフラストラクチャが、モデルのトレーニングと推論プロセスを加速させていくでしょう。

  • 生成AIワークロード向けアクセラレータ:CPUと並行して動作し、大規模な生成AIモデルに基づきアプリケーションを開発 (トレーニング) および実行 (推論) するための高度な並列処理操作をサポートするチップ
  • AIシミュレーション:AIエージェントとシミュレーション環境 (AIエージェントのトレーニング、テスト、時には導入が可能な環境) を一緒に開発するために、AIとシミュレーションのテクノロジを組み合わせたアプリケーション
  • AIスーパーコンピューティング:急速に進化中のテクノロジ領域の1つ。目的に合わせて設計されたスーパーコンピューティング・システムを用いて、計算アクセラレータ、専用ソフトウェア、高速ネットワーク、ストレージ・パフォーマンス最適化における最先端のイベーションを組み合わせることによって、複雑で計算負荷の高いAIモデルのトレーニングと展開を加速できる統合プラットフォームを構築することを目指す
  • 自己教師あり学習:機械学習 (ML) のアプローチの一種。ラベルやフィードバックを提供するために、過去の結果データや外部 (人間) のスーパーバイザーに頼ることなく、データ自体からラベルや教師信号を作成する
  • 転移学習:以前にトレーニング済みのMLモデルを、新たなタスクのための高度な出発点として再利用するAI手法。新たなタスクで許容できるパフォーマンスを得るのに必要な学習時間とデータを減らすことを目的としている

生成AIのハイプ・サイクルについて、日本企業にとって重要な点は?

日本の生成AI市場は現在(2024年11月時点)、「過度な期待」(期待が最も高まった状態、ハイプ・サイクルのピーク期)にあることが特徴的です。多くの企業がRAG(検索拡張生成)技術を活用して、自社の既存データと生成AIを組み合わせる取り組みを始めていますが、その過程では様々な課題に直面し、試行錯誤を重ねている状況です。

一方で、生成AI関連のテクノロジ・トレンドには幅広いものがあり、その多くが現在進行形で進化中です。多くの企業にとって、現在認識しているテクノロジの枠組みを超えた生成AIに関する新しい視野や視点を捉えることが重要です。

今後2-5年で企業が重点的に検討すべき生成AIテクノロジとは?

向こう2-5年間で特に注目すべき技術として、マルチモーダル生成AIとオープンソースLLMが挙げられます。

マルチモーダル生成AIは、テキストだけでなく画像、音声、動画などの複数のタイプのデータを統合的に処理できる技術で、より豊かなユーザー体験の実現が期待されています。通常では実現不可能な新しい機能を実現することで、エンタプライズ・アプリケーションに変革的なインパクトをもたらします。このインパクトは特定の業界やユースケースに限定されるものではなく、AIと人間の間のあらゆる接点への適用が可能です。現在、多くのマルチモーダル・モデルは2~3つのモードに限定されていますが、今後数年のうちにさらに多くのモードが組み込まれるようになるでしょう。

また、オープンソースLLMは、商用アクセスを民主化し、開発者が特定のタスク/ユースケース向けにモデルを最適化できるようにすることで、生成AIの導入から得られる企業価値を加速させるディープ・ラーニングのファウンデーション・モデルです。さらに、モデルの改善と価値の向上という共通の目標に取り組んでいる企業、学術機関、およびその他の研究機関の開発者コミュニティにアクセスできるようにします。

長期的(5-10年)な視点で注目すべき生成AIテクノロジとは?

長期的な視点では、ドメイン固有の生成AIモデルと自律エージェントが特に大きな可能性をもたらすでしょう。

ドメイン固有の生成AIモデルは、特定の業界、ビジネス機能、またはタスクのニーズに最適化されています。企業内でユースケースの整合性を改善すると同時に、精度、セキュリティ、プライバシーを向上させ、よりコンテキストに沿った回答を提供できるようにします。これにより、汎用モデルの場合ほど高度なプロンプト・エンジニアリングを使用する必要がなくなり、対象を絞ったトレーニングを通じて、ハルシネーション (捏造された回答) のリスクを下げることができます。

一方、自律エージェントは、人間の介入なしで、定義された目標を達成する複合システムです。さまざまなAI技術を利用して、環境におけるパターンを識別し、意思決定を行い、一連のアクションを実行し、アウトプットを生成します。自律エージェントは、環境を学習し続けることで性能が向上し、次第に、より複雑なタスクに対処できるようになる可能性を秘めています。

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*1 生成AIのハイプ・サイクル:2024年

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