先進テクノロジのハイプ・サイクル:2023年
2033年までにビジネスや社会に影響を与える先進テクノロジ

2023年10月29日

2023年の先進テクノロジは、「創発的なAI」「開発者エクスペリエンス」「クラウドの普及」「人間中心のセキュリティとプライバシー」という4つの主なテーマに分類されます。

ガートナーの「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」では、テクノロジ・イノベーションのリーダーを支援することを目的として、以下の項目について、押さえておくべき25の先進テクノロジを特定しています。

  • 先進テクノロジがもたらすビジネス・インパクトを評価する

  • 潜在的な革新的テクノロジを検証および探索する 

  • 先進テクノロジからメリットを得るための戦略を策定する

これらの先進テクノロジは今後2~10年にわたってビジネスと社会に大きなインパクトを与えることが予想されます。特にCIOをはじめとするITリーダーは、こうしたテクノロジを活用することで、デジタル・トランスフォーメーション (DX) を実現できるようになるでしょう。

先進テクノロジは本質的にディスラプション (破壊)をもたらす可能性があり、潜在的なユースケースから主流となるまでの道のりを理解することが極めて重要です。

ガートナーのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストのアルン・チャンドラセカラン (Arun Chandrasekaran) は、次のように述べています。「本ハイプ・サイクルで取り上げているテクノロジは、初期段階、あるいはまだ誕生したばかりの段階にあります。どのように進化するかが極めて不確実であるため、導入には大きなリスクが伴いますが、アーリー・アダプター (早期採用者) には、多大なメリットをもたらす可能性があります」

2023年以降に考えるべき、ガートナーのハイプ・サイクルの4つのテーマ

テーマ1:創発的なAI

本テーマに分類されるテクノロジは、企業が他社と比較して優れた価値を提供し、その優位性を維持し続けるような持続可能な差別化と従業員の生産性向上を実現する機会をもたらします。

競争上の差別化をもたらす大きな可能性を秘めている生成AIのほかにも、デジタル・カスタマー・エクスペリエンスの強化や、ビジネス上の意思決定の向上、競合他社との差別化を図る上で極めて大きな潜在力を有している先進的なAI手法もいくつかあります。

創発的なAIの一例である生成AIは、オリジナルのソース・コンテンツから成る膨大なリポジトリから学習することで、コンテンツ、戦略、設計、手法を新たに生み出すことができます。生成AIは、2~5年のうちに主流のテクノロジとなり、コンテンツ/プロダクト開発、人間の作業の自動化、カスタマー・エクスペリエンス従業員エクスペリエンスの向上などに関して、ビジネスに大きな影響を与え続けるでしょう。

創発的なAIに関して極めて重要なテクノロジとしては、以下のようなものがあります。

  • AIシミュレーション:AIエージェントとシミュレーション環境 (AIエージェントのトレーニング、テスト、時には導入が可能な環境) を一緒に開発するために、AIとシミュレーションのテクノロジを組み合わせたアプリケーション

  • コーザルAI:相関に基づく予測モデルを超え、アクションをより効果的に処方してより自律的に行動できるAIシステムにするために、因果関係を特定して活用する

  • フェデレーション型機械学習:データ・サンプルを明示的に共有せずに機械学習アルゴリズムのトレーニングを行うことで、プライバシー/セキュリティの強化を図る 

  • グラフ・データ・サイエンス (GDS):データ・サイエンス手法をグラフ・データ構造に適用して、予測的/処方的モデルの構築に利用できる行動特性を特定する分野

  • ニューロシンボリックAI:機械学習 (ML) 手法とシンボリック・システムを組み合わせて、より堅牢で信頼性に優れたAIモデルを作成するコンポジットAIの一形態

  • 強化学習 (RL):学習システムがポジティブなフィードバック (報酬) とネガティブなフィードバック (罰) のみでトレーニングを受ける機械学習の一種

テーマ2:開発者エクスペリエンス (DevX)

大半の企業にとって、開発者エクスペリエンスの強化は非常に重要です。本テーマに分類されるテクノロジは優秀なエンジニア人材の引き付けと定着に重点を置いており、「開発者」と「ツール/プラットフォーム/プロセス/共に働く人々」との間で生じるインタラクションをサポートします。

バリューストリーム管理プラットフォーム (VSMP) は、エンド・ツー・エンドのプロダクト・デリバリの最適化とビジネス成果の向上を目指すDevXテクノロジの一例です。VSMPは通常、特定のツールに依存しません。既存ツールに接続し、顧客のニーズから価値提供にわたるソフトウェア・プロダクト・デリバリのすべての段階においてデータを取り込みます。VSMPは、コスト、オペレーティング・モデル、テクノロジおよびプロセスを最適化することによって、ソフトウェア・エンジニアリング・リーダーがソフトウェア・プロダクトのパフォーマンスを向上させる機会を特定し数値化できるようにします。バリューストリーム管理プラットフォームが主流になるまでには、2~5年かかるでしょう。

開発者エクスペリエンスに関して極めて重要なテクノロジとしては、以下のようなものがあります。

  • AI拡張型ソフトウェア・エンジニアリング:AIテクノロジと自然言語処理 (NLP) を使用して、ソフトウェア・エンジニアのアプリケーション開発/デリバリ/保守を支援する
  • API中心のSaaS:プログラムによる要求/応答やイベント・ベースのインタフェース (API) を主なアクセス手段として使用するよう設計されたクラウド・アプリケーション・サービス

  • GitOps:クラウド・ネイティブ・アプリケーション向けクローズド・ループの制御システムの一種

  • 内部開発者ポータル:セルフサービスによるデータ・ディスカバリのほか、複雑でクラウド・ネイティブなソフトウェア開発環境におけるリソースへのアクセスを可能にする

  • オープンソース・プログラム・オフィス (OSPO):オープンソース・ソフトウェア (OSS) やオープンソースのデータ/モデルを使用して、ガバナンス、管理、促進、効率化を図る戦略を策定するためのコンピテンシ・センター

テーマ3:クラウドの普及

本テーマに分類されるテクノロジは、クラウド・コンピューティングが進化してビジネス・イノベーションの重要な推進要素になっていくことに重点を置いています。それらは、エッジでクラウドを描き直し、業種別の統合を強化し、業界に関連するソリューションを実現します。クラウドへの投資から最大の価値を引き出すには、オペレーションの自動拡張、クラウド・ネイティブ・プラットフォーム・ツールへのアクセス、適切なガバナンスが必要になります。

インダストリ・クラウド・プラットフォームは、クラウドの普及に関連するテクノロジの好例です。コンポーザブルな能力を用いて、基盤となるSaaS/PaaS/IaaSサービスをホール・プロダクトに組み合わせることで、業界関連のビジネス成果に対応します。通常、インダストリ・クラウド・プラットフォームには、業界別のデータ・ファブリック、ビジネス・ケイパビリティ・パッケージのライブラリ、コンポジション・ツール、その他プラットフォームのイノベーションが含まれます。ITリーダーはこうしたプラットフォームのコンポーザビリティを活用して、加速するディスラプション (破壊) に応じて適応性と俊敏性を高めることができます。インダストリ・クラウド・プラットフォームが主流になるまでには、5〜10年かかるでしょう。

クラウドの普及に関して極めて重要なテクノロジとしては、以下のようなものがあります。

  • 拡張FinOps:従来のDevOpsの概念であるアジリティ、継続的インテグレーション/デプロイのほか、財務ガバナンス/予算編成/コスト最適化の取り組みへのエンドユーザーからのフィードバックを適用する

  • クラウド開発環境 (CDE):セットアップと構成の手間を最小限に抑えながら、リモート・アクセスですぐに利用可能なクラウド・ホスト型開発環境を提供する

  • クラウド・サステナビリティ:クラウド・サービスの使用によって、経済/環境/社会システムの中でサステナビリティのメリットを達成する

  • クラウド・ネイティブ:クラウド・コンピューティングの本来の定義に含まれるクラウドの特性を最適な方法で活用または実装するために作成されたものを指す。これにはサービスとして提供される機能が含まれる

  • エッジへのクラウド・アウト:中央で一元的に管理されるクラウド環境 (主としてハイパースケール・クラウド) で提供されるクラウド・サービス機能がエッジ環境にまで拡張しているアーキテクチャ構成

  • WebAssembly (Wasm):軽量なスタック・ベースの仮想マシンとバイナリ・コード形式。Webページ上でのアプリケーションのセキュリティ確保と高パフォーマンスをサポートするように設計されている

テーマ4:人間中心のセキュリティとプライバシー

本テーマに分類されるテクノロジは、組織が人間中心のセキュリティとプライバシーのプログラムを実装してレジリエンス向上を可能にすることに重点を置いています。こうしたテクノロジによって、企業は互いに信頼し合う文化を醸成し、多くのチーム間での意思決定においてリスクを共有していることを認識できるようになります。

AIの信頼性/リスク/セキュリティ・マネジメント (AI TRiSM) は、人間中心のセキュリティとプライバシーの好例であり、AIモデルのガバナンス、信頼性、公平性、確実性、堅牢性、有効性、データ保護を確保します。これには、モデルの解釈可能性と説明可能性、データ/コンテンツの異常検出、AIのデータ保護、モデルの運用、敵対的な攻撃に対する抵抗に関するソリューションと手法が含まれます。AI TRiSMが主流になるまでには、2~5年かかるでしょう。

人間中心のセキュリティとプライバシーに関して極めて重要なテクノロジとしては、以下のようなものがあります。

  • サイバーセキュリティ・メッシュ・アーキテクチャ (CSMA):全体的なセキュリティ効果を改善する、コンポーザブルな分散型セキュリティ・コントロールのアーキテクチャを設計する最新のアプローチ

  • 生成サイバーセキュリティAI:オリジナルのソース・データから成る膨大なリポジトリから学習することで、セキュリティ関連やそれ以外の関連の深いコンテンツ、戦略、設計、手法を新たに生み出す

  • 準同型暗号 (HE):データを暗号化したまま計算できるアルゴリズムを使用する。これによって企業はプライバシーを損なわずにデータを共有できる

  • ポスト量子暗号 (PQC):従来型/量子コンピューティング攻撃のどちらに対してもセキュリティを確保できるよう設計されたアルゴリズム。耐量子暗号とも称される

Arun Chandrasekaranは、ガートナーのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストです。企業のIT部門におけるテクノロジ・イノベーションの促進方法についてCTO/CIOに戦略的なアドバイスを提供することに注力しています。

【海外発の Gartner Articles】
本資料は、ガートナーが海外で発信している記事を一部編集して、和訳したものです。本資料の原文を含め Gartner が英文で発表した記事に関する情報は、以下よりご覧いただけます。
https://www.gartner.com/smarterwithgartner/

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