高度な意思決定を人工知能 (AI) に委ねるか?

2021年7月30日

ビジネスに関してより効果的な意思決定を下すには、いつ、どのような理由で、人間による意思決定をデータ/アナリティクスや人工知能 (AI) の力で補完すべきかを知る必要があります。

今日の組織では、人間が多くの意思決定を下しています。その一例が、給与です。給与決定には概して、マネージャーの裁量と評価される従業員の無形の貢献度が反映されます。しかし、自分の給料が公正だと考える従業員は40%しかいません。それでは給与決定にAIを導入すれば、この結果は改善されるのでしょうか。この件については、後ほど詳述します。

まずは、今日、優れた意思決定を下すことが難しい原因と、AIがこの助けとなる理由を考えてみましょう。ガートナーの最新の調査によれば、2年前と比較すると、関与するステークホルダーや選択肢が増え、65%の意思決定が複雑になっています。つまり、今日のビジネス上の意思決定が行われている急速に変化する状況に、意思決定が追いついていないのです。

ガートナーのアナリストでシニア ディレクターのピーター・デン・ハーマー (Pieter den Hamer) は次のように述べています。「現代のビジネス、特にデジタル・ビジネスでは、市場ダイナミクスと複雑性が絶えず高まっています。企業は、可能な限り最短に最善の意思決定を下せるよう能力を高めなければなりません。しかも、リスクに配慮しながら、スケーラビリティ/一貫性/適応力のある意思決定を個々の状況に合わせて下す必要があるのです。さらに言えば、今日の意思決定とは、過去の状況認識に基づいて行われるものではなく、『今このとき』を反映したものでなければなりません」

意思決定における様々なAI適用度

意思決定において、人間は完全に信頼があるとも一貫性があるとも言えませんが、それでも人間は重要な意思決定能力を発揮します。同様に、AIにも意思決定において役割があります。

「意思決定の自動化」「意思決定の拡張」「意思決定の支援」の3つは、AIとアナリティクスを導入することにより、より速く、より一貫性と適応力のある、より質の高い意思決定を広く適用できるかの度合いを表しています。

3者の違いは、意思決定プロセスの様々な段階で使う分析手法と、最終的に誰が (または何が) 意思決定を下すかという点にあります。

  • 意思決定の自動化:システムが、処方的アナリティクス、あるいは予測的アナリティクスを使って意思決定を下します。意思決定のスピード、スケーラビリティ、一貫性に優れているという利点があります。
  • 意思決定の拡張:システムが、処方的アナリティクスか予測的アナリティクスを使って、人間の主体に対して、1つの意思決定または複数の意思決定代替案に関するレコメンデーションを作成します。人間の知識と、大量のデータを迅速に分析して複雑性に対処するAIの能力との間で相乗効果が生まれるという利点があります。
  • 意思決定の支援:記述的アナリティクス、診断的アナリティクス、または予測的アナリティクスによる支援を受けながら、人間 (従業員) が、意思決定を下します。データ・ドリブンな洞察力と人間の知識/専門性/常識 (「直感」や感情を含む) を組み合わせて適用できるところに主な利点があります。

意思決定にAIを導入すべきタイミングを知る

意思決定をAIで自動化/拡張/支援できるか、またはそうすべきかどうかは、2つの重要な変数で決まります。それは、意思決定をどれだけ速く必要としているかという「時間」と、「複雑性」です。

「時間」の側面は、組織が脅威や機会を認識してから対策を決めて行動を起こすまでの時間の幅を意味します。時間の幅は、株式における高頻度取引ではマイクロ秒、給与決定では数週間、戦略的M&Aでは数カ月から場合によっては数年とさまざまです。

高度なアナリティクスやAIで成すべき意思決定の拡張の程度を考える

例えばカネビン・フレームワーク (Cynefin Framework: 状況、問題を大きく4つのドメインに分類し、意思決定を支援するために使用される概念的フレームワーク) で複雑性を図解にすると、「単純系」から「困難系」「複雑系」「カオス系」までマッピングすることができます。

  • 単純系:安定し、予測可能な状況であり、明確な原因/結果に基づいてオペレーションを行っています。例えば、給与計算やコールセンターでのルーティングがあります。
  • 困難系:原因/結果を特定するために専門知識や分析が必要となる状況であり、多くの場合、既知の問題解決プラクティスで専門知識を使います。例えば、保険金詐欺、資産管理、マーケティング・キャンペーンがあります。
  • 複雑系:関係性や相互依存関係が複数含まれる状況にあります。分析を効果的に行うには、意思決定が、離れた要素にどう影響するかをシミュレーションで確認しながら、連鎖的に波及するアプローチか包括的なアプローチを取る必要があります。サプライチェーンの混乱は、この一例です。
  • カオス系:原因と結果が共に未知で、相互依存関係が不明か動的に変化する状況です。小さな変化が、一見すると不釣り合いな影響を及ぼす場合があります。意思決定を下すことは非常に難しく、実験し、試行錯誤によって学ぶことが必要です。例えば、株式市場の暴落、戦場、自然災害などがあります。

意思決定におけるAIは、時間と複雑性に依存する

「時間」と「複雑性」という2つの側面を両方適用することで、リーダーは、個々の意思決定を評価し、意思決定を自動化、拡張、支援することの価値と実現可能性を判断することができます。

意思決定評価モデル

「意思決定の自動化」は、数秒から15分以内に下さなければならない単純な意思決定にとって魅力的なオプションです。「意思決定の拡張」は、困難な意思決定や、数分から数時間以内に下さなければならない意思決定のためのオプションになります。複雑または混沌とした状況での意思決定、そして緊急性がない意思決定については、リーダーは「意思決定の支援」を検討することができます。

このすべての状況にAIを適用できます。時間と共にテクノロジが進歩するにつれ、実行可能な方法で自動化できる範囲は、「複雑性」の軸に沿ってさらに広がっていくことが期待できます。

給与決定におけるAIの活用

ここで、AIが給与決定の場で果たせる役割があるかどうかという話に戻ります。

給与決定には、特定の役割に対する基本給の決定から (より単純)、業績に応じた昇給の判断 (より困難、時に複雑) まで、さまざまな形態と複雑さの度合いがあります。

また緊急性はなく、リーダーは意思決定のために数日から数週間の時間的余裕があります。そのため、多くの給与決定は「意思決定の支援」の区分に置かれます。ただし、経験の蓄積と継続的な改善によって、一部の従業員の給与決定については自動化できるという自信がつくかもしれません。

ガートナーのリサーチによると、現在は3分の1の組織が給与に関する何らかの意思決定でAIを使っています。そのうち、79%は給与の標準化が進んだと回答し、半数以上が成果に見合う給与決定に向けた取り組みが改善されたと回答しています。

【海外発の Gartner Articles】
本資料は、ガートナーが海外で発信している記事を一部編集して、和訳したものです。本資料の原文を含め Gartner が英文で発表した記事に関する情報は、以下よりご覧いただけます。
https://www.gartner.com/smarterwithgartner/

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