米国フロリダ州オーランド発 - 2018年10月15日 - ガートナーは、2019年に企業や組織にとって戦略的な重要性を持つと考えられるテクノロジ・トレンドのトップ10を発表しました。これは、世界各国で開催している『Gartner Symposium/ITxpo』において明らかにされています。
ガートナーは、テクノロジが出現したばかりの状態を脱し、幅広く利用され、より大きなインパクトをもたらす状態に入り、大きな破壊的可能性を持つようになったトレンドや、今後5年間で重要な転換点に達する、変動性が高く、急成長しているトレンドを、「戦略的テクノロジ・トレンド」と呼んでいます。
ガートナーのディスティングイッシュト バイス プレジデント, アナリストのデイヴィッド・カーリー (David Cearley) は次のように述べています。「インテリジェント・デジタル・メッシュは、ここ2年間一貫して顕著なテーマであり、2019年も引き続き大きな推進要因となります。このテーマを構成するインテリジェント、デジタル、メッシュという3つのキーワードに関するトレンドは、ContinuousNEXT戦略の一環として継続的イノベーションのプロセスを推進する重要な要素となります。例えば、人工知能 (AI) は、自律的なモノや拡張インテリジェンスという形態を取り、モノのインターネット (IoT)、エッジ・コンピューティング、デジタル・ツインと併せて利用することで高度に統合されたスマート・スペースを実現します。このように、複数のトレンドが組み合わさって新しい機会を生み出し、新たなディスラプション (破壊) を推進するという複合的な影響を与えることが、ガートナーの2019年戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10における特徴となっています」
2019年に注目すべき戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10は、次のとおりです。
自律的なモノ
ロボット、ドローン、自律走行車などの自律的なモノは、これまで人間が担ってきた機能を、AIを利用して自動化します。そのような自動化は、固定的なプログラミング・モデルによる自動化をはるかに上回る機能を提供し、AIを活用して周囲の環境や人とより自然にやりとりする高度な振る舞いを実現します。
前出のカーリーは次のように述べています。「自律的なモノが増えると、単独型のインテリジェントなモノから、スワーム (群れ) として機能する協調型のモノへとシフトしていくことが予想されます。協調型のモノのスワームでは、人から独立して、または人間の操作によって、複数のデバイスが連携します。例えば、大規模農業では、ドローンが畑を調査し、収穫時期を見計らって『自律的な刈り取り機』を出動させることが可能です。また、宅配市場で最も効果的なソリューションとして考えられるのは、配送地域への荷物の輸送に自律走行車を使用することです。その上で、車両に搭載されたロボットやドローンが、配達先に確実に荷物を届けることができます」
拡張アナリティクス
拡張アナリティクスは、拡張インテリジェンスの特定領域に焦点を当て、機械学習を使用してアナリティクスの対象となるコンテンツの開発/利用/共有方法を変革します。拡張アナリティクスは、データ準備、データ管理、近代的なアナリティクス、ビジネス・プロセス管理、プロセス・マイニング、データ・サイエンス・プラットフォームにおける主要機能として、主流の採用へと急速に進展しています。拡張アナリティクスから自動生成された洞察も、エンタプライズ・アプリケーションに組み込まれるようになります。例えば、人事、財務、営業、マーケティング、顧客サービス、購買、資産管理といった部門で、アナリストやデータ・サイエンティストだけでなく、あらゆる従業員の意思決定とアクションを、それぞれの状況に合わせて最適化できるようになります。拡張アナリティクスがデータ準備、洞察の生成、洞察の可視化を自動化することによって、多くの状況においてデータ・サイエンティストの関与が不要になります。
カーリーは次のように述べています。「そこで改めて、市民データ・サイエンスが重要になります。これは、統計やアナリティクスを専門としないユーザーでもデータから予測的/処方的洞察を得られるようにするための、各種の機能とプラクティスです。2020年末まで、市民データ・サイエンティストの数は、専門的なデータ・サイエンティストの5倍の速さで増加していくでしょう。専門的なデータ・サイエンティストの不足とその報酬の高さによって、データ・サイエンス分野や機械学習分野の人材が不足していますが、企業や組織は市民データ・サイエンティストを活用することで、こうした問題に対処できます」
AI主導の開発
AI搭載ソリューションの開発における市場のアプローチが急速に変わりつつあります。従来は、専門家としてのデータ・サイエンティストがアプリケーション開発者と連携する必要がある場合がほとんどでした。新しいモデルでは、サービスとして提供される「事前に定義された」モデルを使用して、専門の開発者が単独で作業できます。これにより開発者は、AIのアルゴリズムとモデルのエコシステムに加えて、AIの機能とモデルをソリューションに組み込むための開発ツールを利用できるようになります。専門アプリケーション開発では、AIが開発プロセス自体に適用され、データ・サイエンス、アプリケーション開発、テストのさまざまな機能が自動化されるのに伴い、さらなる機会がもたらされます。2022年までに、新規アプリケーション開発プロジェクトの40%以上において、AIが共同開発者としてチームに参加するようになります。
カーリーは次のように述べています。「高度なAIを搭載した開発環境は、アプリケーションの機能面と非機能面の両方を自動化していきます。これによって、『市民アプリケーション開発者』の新時代がいずれ到来し、非専門ユーザーがAI主導のツールを使用して、新しいソリューションを自動的に開発できるようになるでしょう。非専門ユーザーでもコーディングを行わずにアプリケーションを開発できるツールは、これまでも存在していました。しかし、AI搭載システムが新たなレベルの柔軟性をもたらすとガートナーは予測しています」
デジタル・ツイン
デジタル・ツインとは、現実世界の実体やシステムをデジタルで表現したものを指します。ガートナーでは、2020年までに、コネクテッド・センサとエンドポイントの数が200億を超え、数十億のモノに対するデジタル・ツインが存在するようになると予測しています。企業や組織は、まず単純な形でデジタル・ツインを導入し、その後、適切なデータを収集および可視化する能力を向上させたり、適切なアナリティクスとルールを適用したり、ビジネス目標に効果的に対応させたりするなど、時間とともに利用法を進化させていくでしょう。
カーリーは次のように述べています。「デジタル・ツインは、組織のデジタル・ツイン (DTO: Digital Twin of an Organization) を実現するという、IoTのさらに先を行く革新的な特徴を持ちます。DTOは、動的なソフトウェア・モデルであり、組織のオペレーション・データなどからビジネスモデルの運用状況を把握し、現状に関連付け、リソースを展開し、変化に対処して、顧客にとっての望ましい価値を提供します。DTOは、ビジネス・プロセスの効率化に役立つだけではありません。より柔軟かつ動的で、より優れた応答性を備えたプロセスを作り出すため、状況の変化に自動的に対応できるようになる可能性もあります」
エッジ機能の拡張
人が使用するエンドポイント・デバイスや、周辺環境に組み込まれたエンドポイント・デバイスをエッジと呼びます。エッジ・コンピューティングとは、情報の処理およびコンテンツの収集と配信が、これらのエンドポイントに近い場所で行われるコンピューティング・トポロジを指します。 トラフィックの流れや情報の処理をローカル側に維持しようとするものであり、その狙いは、トラフィックと遅延の低減にあります。
近い将来、エッジ機能はIoTによって、また、集中管理型のクラウド・サーバではなくエンドポイントの近くで処理を行うというニーズによっても強化されます。ただし、クラウド・コンピューティングおよびエッジ・コンピューティングは、新たなアーキテクチャを開発するのではなく、補完的なモデルとして進化していくでしょう。クラウド・サービスは、一元化されたサービスとして管理され、集中管理型のサーバのみならず、オンプレミスの分散サーバやエッジ・デバイス自体でも実行されるようになります。
今後5年間で、さまざまなエッジ・デバイスにおいて、処理能力、ストレージ、その他の高度な機能が強化されるとともに、専用のAIチップが搭載されるようになります。こうした組み込みIoT環境の異種混在性が極めて高くなり、産業システムなどの資産のライフサイクルが長期化することで、管理上の大きな課題が生じるでしょう。長期的には、5Gの成熟に伴ってエッジ・コンピューティング環境が拡張し、一元化されたサービスとの通信がより堅牢なものとなります。5Gは、遅延の低減、帯域幅の拡大に加えて (エッジで非常に重要な点として) 1平方キロメートル当たりのノード数、すなわちエッジのエンドポイント数の大幅な増加をもたらします。
イマーシブ・エクスペリエンス
会話型プラットフォームによって、人がデジタル世界とやりとりする方法が変化しつつあると同時に、仮想現実 (VR)、拡張現実 (AR)、複合現実 (MR) によって、人がデジタル世界を知覚する方法も変化しています。こうして知覚とやりとりの両方のモデルが変化すると、将来のイマーシブなユーザー・エクスペリエンスが実現します。
カーリーは次のように述べています。「今後は、個別のデバイスや断片的なユーザー・インタフェース (UI) テクノロジではなく、マルチチャネルかつマルチモーダルのエクスペリエンスが考慮されるようになっていきます。マルチモーダル・エクスペリエンスでは、従来のコンピューティング・デバイス、ウェアラブル、自動車、環境センサ、家電製品といった、人々の周囲に存在する多数のエッジ・デバイスにわたって、人とデジタル世界がつながります。マルチチャネル・エクスペリエンスでは、こうしたさまざまなマルチモード・デバイスで、人間のあらゆる感覚と、高度なコンピュータで感知される温度、湿度、電波などが活用されます。このマルチエクスペリエンス環境は、個別のデバイスではなく周辺環境が『コンピュータ』として定義されるアンビエントな (環境に溶け込んだ) エクスペリエンスを作り出します。つまり、環境がコンピュータになるのです」
ブロックチェーン
ブロックチェーンは分散型台帳の一種であり、信頼性と透明性を実現し、ビジネス・エコシステム間における摩擦を軽減することで、各種の業界を再構築すると見込まれています。また、コスト削減、決済時間の短縮、キャッシュフローの改善を実現する可能性を秘めています。今日の社会では、「唯一の真実」をデータベースにセキュアに保持している中央機関として、銀行や手形交換所、政府といったさまざまな機関に信頼が置かれています。中央集権型の信頼モデルは、取引の遅延を招き、追加コスト (手数料、料金、貨幣の時間価値) をもたらします。ブロックチェーンは、こうした既存の仕組みを代替する信頼モデルであり、中央機関による取引の仲介を不要にします。
カーリーは次のように述べています。「現在のブロックチェーンのテクノロジとコンセプトは、未成熟であり、十分に理解されていない上に、ミッション・クリティカルかつ大規模なビジネス・オペレーションでは実証されていません。これが特に顕著なのは、より高度なシナリオに対応する複雑な要素が絡む場合です。こうした課題があるとはいえ、ブロックチェーンはディスラプションをもたらす可能性が高いため、今後数年以内に積極的に導入する意向がない企業であっても、CIOおよびITリーダーは評価を開始すべきです」
現在、高度に分散されたデータベースをはじめとする多くのブロックチェーンの取り組みが推進されていますが、これらはブロックチェーンの特徴のすべてを実現するものとはなっていません。ブロックチェーンから着想を得たこれらのソリューションは、ビジネス・プロセスの自動化や記録のデジタル化により、オペレーション効率を向上させる手段として位置付けられます。既知の実体間における情報共有を強化し、物理資産およびデジタル資産の追跡とトレースの機会を改善する可能性を秘めています。その一方で、こうしたアプローチは、ブロックチェーンによる真のディスラプションがもたらす価値を実現できず、ベンダー・ロックインを助長する恐れもあります。ブロックチェーンに取り組む企業や組織は、このような制約があることを理解し、完全なブロックチェーン・ソリューションへと移行していく態勢を整える必要があります。また、ブロックチェーン以外の既存テクノロジの利用を効率化および調整することで、同様の成果を達成できる可能性があることも認識すべきです。
スマート・スペース
スマート・スペースとは、オープン性、接続性、調和、インテリジェンスがますます高まっているエコシステムにおいて、人間と、テクノロジによって実現されるシステムがやりとりする物理環境またはデジタル環境を指します。人、プロセス、サービス、モノを含む複数の要素がスマート・スペースで組み合わさり、対象とする人と業界のシナリオ向けに、よりイマーシブかつインタラクティブな、自動化されたエクスペリエンスを創出します。
カーリーは次のように述べています。「このトレンドは、スマート・シティ、デジタル・ワークプレース、スマート・ホーム、コネクテッド・ファクトリなどの要素と相まって進展しています。市場では堅牢なスマート・スペースの提供が加速しつつあるとガートナーはみています。テクノロジは、従業員、顧客、消費者、コミュニティ・メンバー、市民といったさまざまな役割を担う私たちの日常生活に不可欠な要素となっていきます」
デジタル倫理とプライバシー
デジタル倫理とプライバシーは、個人、組織、政府機関にとって大きな懸念となっています。人々は、自らの個人情報が官民問わずさまざまな組織でどのように扱われるかについて、ますます関心を持つようになっています。こうした課題に積極的に対応しないままでいると、組織は手痛いしっぺ返しを受けることになるでしょう。
カーリーは次のように述べています。「プライバシーの問題は、デジタル倫理、そして顧客、ステークホルダー、従業員からの信頼という、広範なトピックに基づいて議論する必要があります。信頼を構築する上では、プライバシーとセキュリティが基本となります。しかし実際には、それだけで信頼を万全なものにできるわけではありません。信頼とは、根拠や検証なしにステートメントを真実として受け入れることです。究極的には、プライバシーに対する組織の姿勢は、その組織の倫理と信頼に対する姿勢によって決定付けられるべきです。プライバシーから倫理へと軸足を移すことで、『コンプライアンスに反していないか』ではなく『正しいことを行っているか』が議論されるようになります」
量子コンピューティング
量子コンピューティングとは、亜原子粒子 (電子、イオンなど) の量子状態を基盤とする、従来とは異なるタイプのコンピューティング技術であり、量子ビット (キュービット) と呼ばれる素子として情報を表現するものです。並列実行と指数関数的な拡張性を可能にする量子コンピュータは、従来のアプローチでは複雑過ぎて解決できない問題や、従来のアルゴリズムでは解決に時間がかかり過ぎる問題の処理において、卓越した能力を発揮します。自動車、金融、保険、製薬などの業界や、軍事分野、研究機関などは、量子コンピューティングの発展から大きな恩恵を受けます。例えば、製薬業界では、量子コンピューティングを利用して原子レベルで分子間相互作用をモデル化し、新しいがん治療薬の市場投入までの時間を短縮できる可能性があります。また、タンパク質間の相互作用の予測にかかる時間を短縮し、その精度を高めることで、新しい薬学的方法論を導くことができる可能性もあります。
カーリーは次のように述べています。「CIOおよびITリーダーは、量子コンピューティングの導入に向けたプランニングに着手すべきです。そのためには、理解を深め、ビジネスにおける実際の問題の解決にどのように活用できるかを検討する必要があります。このテクノロジがまだ発展途上の段階にあるうちに学習し、実世界の問題で量子コンピューティングの潜在性が発揮されるのは何かを見極め、セキュリティに及び得る影響を検討する必要があります。ただし、今後2~3年以内に量子コンピューティングが革命を起こすといったハイプ (過剰な期待感) に振り回されてはなりません。ほとんどの企業および組織は、2022年末までは量子コンピューティングについて学び、その進展を注視すべきです。このテクノロジを活用すべき時期は、2023年または2025年以降になるでしょう」
ガートナーのサービスをご利用のお客様は、本内容の詳細を「Top 10 Strategic Technology Trends for 2019」でご覧いただけます。各テクノロジ・トレンドについては、ガートナーのYouTube動画「Gartner Top 10 Strategic Technology Trends 2019」でも解説しています。
『Gartner Symposium/ITxpo』について
『Gartner Symposium/ITxpo』は、CIOが次世代のITを主導してビジネスの成果を獲得することを支援するツールおよび戦略とCIOのグローバル・コミュニティとを結び付ける、CIOおよび上級ITリーダーに向けた世界で最も重要なイベントです。世界中で2万5,000人を超えるCIO、上級ビジネス・リーダー、上級ITリーダーが、それぞれのITイニシアティブによって自社ビジネスの成功に貢献するために、必要な知見を求めて一堂に会します。
『Gartner Symposium/ITxpo』に関するニュース、写真、動画は、Smarter With Gartner、Twitter (#GartnerSYM)、Instagram、Facebook、LinkedInでご覧いただけます。
『Gartner Symposium/ITxpo』の今後の開催日時と場所は以下のとおりです。
2018年10月29日~11月1日:豪州、ゴールドコースト
2018年11月4~8日:スペイン、バルセロナ
2018年11月12~14日:日本、東京
2018年11月13~16日:インド、ゴア
2019年3月4~6日:アラブ首長国連邦、ドバイ
2019年6月3~6日:カナダ、トロント
日本では、来る11月12~14日、『Gartner Symposium/ITxpo 2018』をグランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール (港区高輪) にて開催します。ガートナーのセッションでは、CIOをはじめとするITリーダーの最重要課題について、13の主要な領域におけるテクノロジ、戦略、リーダーシップに関する最新トレンドや最先端の知見、洞察を提供いたします。本プレスリリースに関連した内容は、「2019年の戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10」(13日 9:00~9:45、22B) で紹介する予定です。
本シンポジウムの詳細については下記Webサイトをご覧ください。 https://www.gartner.co.jp/symposium
日本でのニュースと最新情報は、ガートナーのTwitter (https://twitter.com/Gartner_jp) でもご覧いただけます (#GartnerSYM)。