バイス プレジデント アナリストの礒田 優一は次のように述べています。「AIガバナンスや実務をどうするのか、明確になっていない企業が散見されます。日本にはAI関連の法規制がない、ということは取り組みを進めない理由になりません。今すぐ取り組みに向けた準備を開始すべきです」
EUのAI規制法はEU域外にも適用されるため、世界中の企業や公的機関の製品/サービスがEU市場に投入される場合、またはその使用がEU内の人々に影響を与える場合は、同様に同法を遵守する必要があります。
「考慮すべきは法律面のみではありません。AIを誤って使った場合には、人権やその他の権利侵害、精神的あるいは肉体的苦痛をもたらすほどの潜在的リスクがあり、道を外せば法律の有無にかかわらず炎上し、企業としての信頼を大きく失うことになります。責任ある企業として然るべき対応を取ることは当然です」(礒田)
企業は日本国内のみならず海外の最新動向を踏まえ、先手を打つ必要があります。EUの一般データ保護規則 (GDPR) がプライバシー関連規制における世界のデファクト・スタンダードのようになった経緯があるのと同様に、EUのAI規制法は今後、他の国々の規範となって広がる可能性があるとGartnerはみています。
リスク・ベースでAIを識別/分類し、法的義務にかかわらず責任ある対応を取る
AIと一言で言っても、実際はさまざまであるため、リスク・ベースで対応するのが現実解となります。EUのAI規制法でも許容できないリスクのAIは禁止し、高リスクのAIにはその要件や義務を定めています。現時点ではそれに該当するAIの開発や使用をしていない日本企業も多く、その場合法的対応の厳密性が問われることはありませんが、ネガティブ・インパクトを与える可能性がある場合には、典型的なAI原則に沿って、責任ある企業として説明できるようにしておくべきです。その多くは必ずしもテクニカルではなく、コンプライアンス対応としての内容が多い場合もありますが、GDPRに対応してきた欧米の組織と比べると、日本の組織はこのあたりの成熟度が総じて低いため、基礎を築くところから取り組みを開始する必要があります。Gartnerは、AIのリスクに対する必要な取り組みを「AIのトラスト/リスク/セキュリティ・マネジメント (AI TRiSM)」と定義し、整理しています。企業は、そうした実践的な取り組みを通して、リスクを軽減させる努力を継続していく必要があります。
礒田は次のように述べています。「AIによる産業革命はまだ始まったばかりです。AIのユースケースとテクノロジは、今後も絶えず変化することを想定しておくべきです。2023年に大きな話題となった生成AIについては、EUのAI規制法においては、議論を経て、特定のAIシステムとして、チャットボットや音声/画像/映像/テキスト・コンテンツ生成の汎用目的のAIを挙げ、透明性要件を課すなどして議論の結果を反映させています。補足するガイドラインも後続で公表されます。テクノロジが先、法律は後追いになるため、企業は、法律中心ではなく『人中心』に考える必要があります」
Gartnerのサービスをご利用のお客様は、リサーチノート「クイック・アンサー:世界のAI規制の最新トレンドを踏まえ、日本企業は何をすべきか」で詳細をご覧いただけます※。
日本で提供しているサービスについては、こちらよりご参照ください。https://www.gartner.co.jp/ja/products
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