ガートナージャパン株式会社 (本社:東京都港区、以下ガートナー) は、日本のテレワークに関する2021年の展望を発表しました。その中で、2025年までに、企業の30%が「リモート・ファースト企業 (テレワークを当たり前のものとする企業)」へ転換すると予測しています。日本企業は、テレワークを恒久的な働き方と位置付け、企業の重要な戦略の1つとして取り組むべきです。
日本企業のテレワーク導入は、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) を契機に急速に進み、多くの企業が緊急措置としてテレワークの対象を広範囲の従業員に拡大しました。企業では、オフィス・ワークやモバイル・ワークという観点をはるかに超えて、働く場所に対する考え方が根本的に見直されています。一方、多くの従業員は、移動時間の削減という端的な影響にとどまらず、仕事と家庭、業務時間とプライベートの垣根を飛び越えて、自分にとって最も働きやすく、生産性の上がる場所や時間で働くことのメリットに気付いています。会社もこうした働き方を積極的に推進し、会社としての魅力を高めることが企業価値と見なされるようになってきています。
アナリストでシニア プリンシパルの針生 恵理は次のように述べています。「テレワークが企業に浸透してきたことで、会社における働き方や考え方を根本的に見直す機会が生まれています。ボトムアップで緊急的、断片的に行ってきたテレワークですが、いまこそ企業全体の働き方の問題として捉え直し、恒久的な対策として取り組む必要があります。それには、経営陣の推進力、従業員であるユーザーの快適さ、それを支える評価/マネジメント、ITツールの活用が重要な要素となります。今後、テレワークはデジタル・ワークプレース戦略の一環として、企業戦略において重要な意味を持つようになります。企業は、自社のテレワーク戦略を改めて見直し、将来に向けたビジョンを明確に示していくことが必要です」
本展望では、日本企業のIT部門が2021年以降のテレワーク戦略を策定する際に注目すべき今後3~5年のトレンドを解説しています。
2024年まで、テレワークを推進する企業の65%は、ツール導入やインフラ整備にとどまり、従業員満足度の向上を含むベネフィットを達成できない
働き方改革などをベースにテレワークを導入してきた企業では、その目的を明確化した上で、主に人事、総務、IT部門がテレワークを主導しています。一方で、COVID-19を契機にテレワークを緊急的に導入した企業は、それを今後も継続する意思を示しており、その比率は企業全体の8割に上ると考えられます。テレワークに関するすべてをIT部門に依存しているケースも多く、このような企業では、テレワークの取り組みを単なるツールやインフラ整備と捉え、経営層から一般社員までの意識や企業文化を変える取り組みとして認識していない状況が見られます。
ガートナーが2020年9月に実施した調査では、テレワークにおける効果を移動時間の節約など、個人の時間の効率化に見いだしている企業が多いことが分かりました。一方で、無駄な仕事の削減や生産性の向上など、根本的な働き方そのものに踏み込んだ効果については限定的であり、今後の取り組みであることが明らかになっています。
2024年までに、テレワークを実施する大手企業の80%は、従業員エンゲージメントを確保するために、社内ソーシャル・ネットワークを再評価する
テレワークが普及したことで、従業員同士が直接会う機会が減少し、従業員同士の雑談や歓談などから得られる思いがけない知見やアイデア、さらには人脈の拡大などの非公式な知的生産活動が低下しています。また、部下とのコミュニケーションが減少し、業績評価が難しくなったと考える上長が増えています。
そうした状況の下、テレワークを実施している一部の企業では、従業員同士や上長と部下との定期的なコミュニケーションを推奨するケースが見られるようになっています。ソーシャル・ネットワークのような公開型コミュニケーションは、出社の機会の減少で不足しがちな従業員間のコミュニケーションを補強し、従業員エンゲージメント(*) を補強できます。現在、Microsoft TeamsやSlackなど、ソーシャル・ネットワークから進化したワークストリーム・コラボレーション・アプリケーションが普及しています。これらは組織内のコミュニケーション/コラボレーション環境を提供するものですが、雑談や歓談といったチャネルを推奨することで、従業員同士の交流を促進し、テレワークで失われがちなエンゲージメントを補完できます。
(*) エンゲージメントについて:従業員と会社のエンゲージメントとは、両者が共に必要な存在として絆を強めながら成長できる関係を築くことを指しています。エンゲージメントを高めることで、会社と従業員双方にとってプラスの関係がもたらされます。
2025年までに、企業の30%が「リモート・ファースト」企業へと転換する
日本企業において、従業員はオフィスに行くのが当たり前という固定概念に変化が見られ、オフィスは直接的なコラボレーションの場として位置付けられるなど、再定義されるようになっています。働く場所に関する考え方を根本的に見直し、通勤手当を廃止するなど、自宅をオフィスのデフォルトにするリモート・ファーストの考え方が一部の企業で取り組まれるようになりました。今後も続く働き方改革や事業継続計画 (BCP)、人材確保、オフィス・スペースの見直しなどのさまざまな理由から、リモート・ファーストへの転換を試みる企業は少しずつ増加し、2025年までに、企業の30%がリモート・ファースト企業へと転換すると予測しています。
働く場所はもはやオフィスだけではなく、自宅、サテライト・オフィスやカフェ、場合によっては車など、あらゆる場所がオフィスになり得ます。企業は今後、こうした環境について検討していく必要があります。それには、テレワーク/ハイブリッド・ワークを前提としたデバイスやツールの選定、セキュリティ対策に加え、リモートでも働ける自律した社員の育成や、従業員エンゲージメントの強化などの取り組みを進めることが重要です。
針生は次のように述べています。「リモート・ファーストの企業となることは、固定的な時間や場所にとらわれずに働くことを意味しているだけでなく、会社の存在価値や在り方、会社に所属することの意味など、あらゆる面で会社と従業員の関係を見直すきっかけとなり得ます。企業は自社の企業価値を高めるために、リモート・ファースト企業への転換を自社の状況に照らし合わせて検討すべきです」
また、針生は次のように補足しています。「ここで重要なのは、テレワークの成功とは何かについて、企業が改めて考察することです。テレワークの成功とは、テレワーク/ハイブリッド・ワークが当たり前になっても、顧客、従業員個々人、家族、会社、組織、パートナー (関連企業、取引先) といったすべてのステークホルダーがハッピーになることであると言えます」
ガートナーのサービスをご利用のお客様は、レポート「2021年の展望:日本のテレワーク成功の勘所」(INF-21-39) で関連する内容をご覧いただけます。
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