米国コネチカット州スタンフォード発、2020年9月21日 — ガートナーは、2021年以降に向けた重要な戦略的展望を発表しました。これらの展望は、リセットと再スタートを経て、不確実性の高い世界に対応していく上でのテクノロジの役割に関するものです。
ディスティングイッシュト バイス プレジデントでガートナーフェローのダリル・プラマー (Daryl Plummer) は、次のように述べています。「テクノロジへの期待値が極限まで高まっており、従来型コンピューティングの仕組みは壁にぶつかっています。世界の動きはかつてないほど速く、デジタル・イノベーションに対するニーズを支援するためには、それと同じ速度でテクノロジの活用とプロセスの変革を進めていかねばなりません。テクノロジに対するまったく新しいアプローチが抜本的なイノベーションをもたらす今後10年に備え、CIOはすぐに行動を始めるべきです」
「『すべてをリセットする』未来のテクノロジには、3つの共通点があります。すなわち、(1) 企業におけるイノベーションと効率化を大幅に推進し、(2) これまでのテクノロジよりも効果的であり、(3) 社会に革新的なインパクトを与えるという点です」
ガートナーが発表した重要な戦略的展望トップ10は以下のとおりです。
2024年までに、従来型の大企業CIOの25%は、デジタル・ビジネスの運用成果に対して説明責任を持ち、実質的な「代理COO」になる。
最高執行責任者 (COO) の役割は数年前から衰退しつつありましたが、新たに生まれたデジタル企業の間でその存在意義が高まっています。COOは、ビジネスと、ビジネスを営むエコシステムの両方を熟知しているため、デジタル化の成功に不可欠な存在です。一方のCIOは、ビジネス・インパクトを促すテクノロジについて深い知識を持っており、COOの役割を部分的に担うことで、テクノロジとビジネスのゴールを融合させ、企業の有効性を高められます。
前出のプラマーは次のように述べています。「デジタル・ビジネスの運用成果に対して説明責任を持つCIOが増えるにつれ、高度にデジタル化された従来型企業のCIOがCEOに直属するトレンドが優勢になるでしょう」
2025年までに、職場での会話の75%は、録音・分析され、組織にとっての新たな価値やリスクの発見に利用される。
職場での会話は、対面で行われてきた従来のものから、クラウド型のミーティング・ソリューション、メッセージング・プラットフォーム、仮想アシスタントを介したコミュニケーションへと変化しています。ほとんどの場合、こうしたツールは会話のデジタル記録を残します。職場での会話は分析され、その結果が、現行の法規制を遵守するためだけでなく、将来のパフォーマンスと行動を予測するためにも使用されます。こうしたデジタル監視テクノロジの使用が拡大するに従い、プライバシー保護を前面に打ち出した倫理的な配慮と行動が極めて重要になっていくでしょう。
2025年までに、従来型のコンピューティング・テクノロジは、ニューロモルフィック・コンピューティングといった新しいパラダイムへのシフトを迫るデジタルの壁にぶつかる。
既存のコンピューティング・テクノロジでは、重大なデジタル・イニシアティブを実現するのが不可能になります。人工知能 (AI)、コンピュータ・ビジョン、音声認識といった、膨大な計算能力を必要とするテクノロジが普及し、汎用プロセッサはデジタル・イノベーションにはますます不向きになるでしょう。
プラマーは次のように述べています。「今後10年にわたり、高度なコンピューティング・アーキテクチャが数多く登場します。直近の例としては、超並列コンピューティング、DNNチップ、ニューロモルフィック・コンピューティングがあります。長期的には、プリンテッド・エレクトロニクス、DNAストレージ、ケミカル・コンピューティングなどのテクノロジが、より広範なイノベーションの機会をもたらすでしょう」
2024年までに、デジタル・ビジネスの30%では、既存のストレージ・テクノロジを圧倒する勢いで急増するデータに対処すべく、DNAストレージの試行が必須になる。
コンピューティングに対する人類のニーズが進化するにつれ、問題の多い複雑な環境にも完全に適応し、レジリエンス (回復力) を発揮できる、より高度なシステムが必要になります。本質的に回復力を備え、エラーをチェックして自己修復することができるDNAの特性は、さまざまなアプリケーションのデータ・ストレージ/コンピューティング・プラットフォームに最適です。
プラマーは次のように述べています。「今日ではかつてないほど多くの情報が収集されていますが、現行のストレージ・テクノロジには、『データを破損することなく保管できる期間』という点で深刻な限界があります。DNAストレージにおいて、デジタル・データは、ヌクレオチドから成る合成DNA鎖のペアの中で符号化されます。これにより、従来のストレージ・メカニズムでは不可能だった長期保管が可能になります」
2025年までに、物理的なエクスペリエンスをベースとしたビジネスの40%は、有償の仮想エクスペリエンスを広く取り入れることで業績を改善し、競合他社を上回るパフォーマンスを挙げる。
モノのインターネット (IoT)、デジタル・ツイン、仮想現実/拡張現実 (VR/AR) の機能が進化し、より魅力的で低コストなイマーシブ (没入的な) エクスペリエンスがこれまで以上に幅広い消費者に提供されています。新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックが社会に与えた影響により、リモートでの、または仮想的なやりとりに対する人々の意識が前向きになったため、この傾向は加速しています。物理的なエクスペリエンスを提供している企業は、仮想的なイマーシブ・エクスペリエンスの創出、提供、支援に関わる分野のスキル向上および獲得に着手する必要があります。
2025年までに、世界の製品や農産物の20%以上は、顧客が実際に手に取るまで人間に触れられることはなくなる。
新興のテクノロジによって人間の作業の自動化が進み、COVID-19のパンデミックがこのトレンドをさらに推し進めています。こうしたトレンドは、製品の設計、材料の使用、工場の場所、資源の使用法を再考する新たな機会をもたらします。自動化が新たな必須課題になるにつれ、「工業製品や農作物の顧客が、それらに最初に触れる人間となる」ケースが増えるでしょう。
前出のプラマーは次のように述べています。「自動化は競争優位性とディスラプション (破壊) を生む新たな源泉です。例えば、インテリジェントなマシンなら、人間のようにブドウの箱詰めの際に実をつぶしてしまう失敗を避けられるでしょう。CIOは、将来に向け自社のプロセスを更新するに当たり、ハイパーオートメーションを『取り組み』ではなく『理念』として捉えるべきです」
2025年までに、顧客は、フリーランスのカスタマー・サービス・プロフェッショナルに代金を支払い、自らのカスタマー・サービス関連問題の75%を解決する。
従来のカスタマー・サービスは、それ自体がボトルネックと化し、しばしば顧客の悩みの種となっていました。企業の正規チャネル以外でカスタマー・サービス問題を解決する方が効果に優れ、良質なカスタマー・エクスペリエンスを得られる場合があります。顧客は、企業に直接連絡するのではなく、支援してもらいたいテクノロジの専門家であるフリーランスのカスタマー・サービス・プロフェッショナルに頼るようになるでしょう。CIOは、サードパーティのカスタマー・サービス・プロバイダーから、カスタマー・エクスペリエンス/ブランド/収益化に関するリスクを突き付けられるよりも早く、こうしたフリーランサーとの提携を目指す必要があります。
2024年までに、主要な組織の30%は、新たな指標である「社会の声」を使って社会問題に働き掛け、自社のビジネス・パフォーマンスへのインパクトを評価する。
「社会の声」(Voice of Society) とは、あるコミュニティに属する人々が共有する視点のことで、さまざまな倫理的価値観を表現したり一般化したりするのを助長するものです。ビジネス効果を測定する戦術は拡大しつつあり、「社会の声」をはじめとする、世論に基づいた評価指標も視野に入れるようになっています。これらの評価指標は今や、クリック・スルー分析といった具体的な指標と同等の信頼性を有しています。社会の変化に即応できるビジネス体制を構築するためにも、こうした測定はCレベルの経営幹部の必須課題となっていくでしょう。
プラマーは次のように述べています。「何度も目にしてきたように、社会問題に関して判断を誤ると、一瞬にして取り返しのつかない悪影響がブランドに及ぶことがあります。2021年中に、『社会の声』に応じる形で変化する、または廃止される製品ブランド/メッセージは、過去5年間の合計数より多くなるでしょう」
2023年までに、大規模な組織は、オフィス・スペースの用途を社内の保育/教育施設に転じることで、従業員定着率を20%以上高める。
子育て支援に対する世界の労働者の要求はまだ満たされていません。COVID-19の発生を受け、そうしたニーズを満たすのはより一層難しくなりました。2021年初頭までに私設保育所の5分の1が完全に閉鎖されると、ガートナーは予測しています。大規模な組織は要求の拡大に対応すべく、施設の空きスペースの用途を、保育サービスや教育サービスといった社会的付加価値の高いサービス向けに転じ始めるでしょう。これにより、特に女性の間で、従業員満足度、生産性、定着率が大幅に向上すると考えられます。
2024年までに、CEOサーベイに回答する大規模組織の30%は、ユーザーが生成したコンテンツ向けのコンテンツ・モデレーション・サービスを「CEOの最優先課題」に挙げる。
この1年の社会不安によって、千差万別のコンテンツがソーシャル・メディアに投稿されるようになりました。ブランドのマーケティング担当者や広告主は、ブランドの安全性に対する懸案や、それらに関連した課題に直面しています。コンテンツ・モデレーション/ポリシー適用/報告サービスに投資することは、自社サイト上のコンテンツが今後どのような影響を持ち得るか企業が把握する上で極めて重要になります。
前出のプラマーは次のように述べています。「多くのブランドが、『適切な取り締まり措置が講じられるまでは、ユーザーが生成したコンテンツを扱うプラットフォーム上での活動はしない』という方針を取っています。とはいえWebサイトやアプリのパブリッシャーは、安全確保のためのポリシーを適用することで検閲を行っていると非難されないよう、過剰な対策は避けざるを得ません。そのため、世論の対立を招くようなコンテンツを中和する責任をブランドの広告主が負うようになり、コンテンツ・モデレーションの業界標準が整備されていくでしょう」
CIOをはじめとするITリーダーにとって世界で最も重要なコンファレンスである「Gartner IT Symposium/Xpo 2020」では、CIOのリーダーシップに関するさらなる分析や、テクノロジとビジネス戦略に対するアプローチを再構築する方法について紹介します。ITリーダーは、本コンファレンスに参加することにより、ビジネス課題の解決とオペレーションの効率化を目的としたIT活用法についての知見を得られます。
日本では、11月17~19日、「Gartner IT Symposium/Xpo 2020」をバーチャル (オンライン) で開催します。本プレスリリースに関連した内容は、前出のプラマーが「ガートナーの戦略的展望:すべてをリセットする」(17日 12:30~13:00) で解説します。コンファレンスのニュースや最新情報はTwitterでもご覧いただけます (#GartnerSYM)。
ガートナーのサービスについては、こちらをご参照ください。
https://www.gartner.com/jp/products
【海外発プレスリリース】
本資料は、ガートナーが海外で発信したプレスリリースを一部編集して、和訳したものです。本資料の原文を含めガートナーが英文で発表したリリースは、以下よりご覧いただけます。
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