ガートナージャパン株式会社 (本社:東京都港区、以下ガートナー) は、テレワークの緊急的な導入を迫られている企業が検討すべき論点について発表しました。
ここにきて、かつてない脅威としての感染症リスクから従業員を守り、拡大させないための重要な施策としてテレワークを捉え、その緊急的な実施に向けた対応を迫られている企業が急増しています。日本では、既にテレワークを実施している企業もありますが、あえて実施してこなかった企業や、何らかの理由で実施できない企業も見られます。問題は、対応を求められても、何から始めたらよいか分からない企業が多数存在している点にあります。
アナリストでシニア プリンシパルの針生 恵理は次のように述べています。「今回の新型コロナウイルス感染症の問題は、2020年3月現在、収束のめどが立っていません。たとえ事態が収束したとしても、今後も何らかの事情で自社のオフィスで働けない状況が訪れる可能性があります。その時、従業員がオフィスでしか働けないという状況は、ビジネスを止めることにつながり、従業員の健康リスクを増大させかねません。今後の事態に備え、企業は、今こそ真剣にテレワークを考え、有効な施策を実施すべきです」
ガートナーは、「テレワークについて何を検討すべきか」について悩んでいる企業に対し、テレワークを推進する際の論点として検討すべきポイントを、以下の5W1Hを軸に解説します。
1. なぜテレワークを行うのか (Why)
検討を進める上では、「なぜテレワークを行うのか」という目的が重要な論点となります。すなわち、今回のような新型コロナウイルス感染症対策としての「緊急的な暫定措置」なのか、あるいは働き方改革などの「恒久的措置」なのかを考える必要があります。
緊急的な暫定措置としてテレワークを導入する場合は、いかに早期に「可能な限り外出の抑制措置を講じ、また実行できるか」がポイントとなります。そのため、最低限の仕事ができる状態にどう早期に持っていくかが問われます。針生は次のように述べています。「この場合は、既存のものを利用して可能な範囲で実施します。ここで、従業員にできるだけ多くの仕事をさせようとすると頓挫してしまうため、連絡手段を確保するなどしてできる範囲で在宅勤務に移行した後で、必要なものをそろえていくといったアプローチを採用します」
また、テレワークを暫定措置から恒久的措置に移行する際には、さまざまな留意すべきポイントがあります。マインドセット (考え方)、アプローチ、振る舞いといった観点から、あらかじめ留意しておいた方がよい点としては、例えば、完璧を求めすぎないことや、無駄な管理を減らしていくことが挙げられます。
2. いつテレワークを行うのか (When)
テレワークを実施するタイミングと「人、モノ、カネ」の有無について、早期に社内の関係各位の共通認識を得ることが求められます。いつ行うかは、テレワークに速やかに移行する場合と、段階を踏む場合の2つのポイントに分けて考えられます。緊急時には、基本的にできるだけすべての人を対象に速やかに移行します。段階的に行う場合は、移行のタイムフレームと誰がテレワークを行うかを整理するところから始めるとよいでしょう。
前出の針生は次のように述べています。「ここで特に留意すべきポイントは、決められたタイムフレームの中で実施したときに仕事に必要なものがそろわないと、結局、従業員が会社に来てしまい、テレワークが成り立たなくなる可能性があることです。急いで行う場合には、とりあえず紙文書を持ち出す、なし崩し的にPCにファイルをダウンロードして持ち運ぶなどの事態が発生する可能性があるため、文書ファイルに対する日常的な取り組みが必要です」
3. どこでテレワークを行うのか (Where)
今回の感染症対策のように、外出の抑制を意図するものについては、基本的に自宅でのテレワークが前提となります。特に、不特定多数の人が集まるような場所での仕事は、感染症対策としては原則「禁止」とすべきです。
一方で、働き方改革の一環として今後取り組んでいく場合は、「自宅では仕事ができない」といった事情を考慮して、自宅だけでなく、サテライト・オフィスやカフェなどでの仕事を認めるケースも考えられます。その場合は、無料のWi-Fi接続やPC画面ののぞき見など、予期せぬセキュリティ上の問題が発生する可能性がある点に留意し、対策を講じるべきです。
4. 誰がテレワークを行うのか (Who)
今回のケースは緊急事態のため、スピード感を持って進めることが感染拡大を防ぐ上では重要ですが、「何とかなるだろう」と全社で一気に進めても、実際には業務が滞る恐れがあります。オフィス・ワーカーの業務はさまざまな種類があり、さまざまな要素から成り立っているため、対象者のグルーピングを行い、優先順位を決定することが重要です。緊急時は会社として従業員を守るという観点で実施されるため経営判断となりますが、実施範囲によって、早急に準備すべきインフラ環境が変わってくる可能性があります。
恒久的措置では、特別な事情がある特定の従業員に限定するのか、あるいはその他の一般従業員も含めるのかなど、誰を対象とするのかについて検討を行います。仕事の内容によってテレワークが難しい従業員もいますが、将来的な働き方改革への取り組みでは、何らかの形で実施できないかを、あらゆる従業員を対象に検討しておくべきです。また、パートタイムをはじめとする非正規雇用者への対応なども、会社として議論しておくことが必要です。
5. 何を使用してテレワークを行うのか (What)
テレワークを導入するに当たって、何を使用して行うのかを考える必要があります。緊急対応であれば、使い慣れたスマートフォン、PC、メールなどの最低限のインフラやアプリケーションでスタートし、その後、必要なツールを追加していくというアプローチが採用されます (図1参照)。