ディスティングイッシュト バイス プレジデントでガートナー フェローの足立 祐子は次のように述べています。「経営層が人材管理の改善に着目する背景には、世界中で深刻化するIT人材不足があります。IT人材不足を引き起こしている主な原因には、ITデリバリ能力に対する需要の急増と、技術および開発/運用に対する新旧アプローチに関するスキルのミスマッチ、スキル転換の遅れなどが挙げられます。それ以外にも、新世代を中心とした働き方やキャリア観の変化、女性や障害者など多様な労働力を包摂する取り組みの遅れなども、徐々にではありますが、確実に影響を及ぼしつつあります」
従来、多くの企業のCIOは、将来必要なスキル、キャパシティ (人数) を詳細に定義し、棚卸しをして、ギャップを埋めるための人材調達・育成計画に入るという「スキル・ベース」のIT人材戦略を推進してきました。スキル・ベースのIT人材戦略は、組織が大きい方が運用しやすく効果を出しやすいという条件はあるものの、これまでは一定の有効性が認められてきました。しかし、今後、デジタル・ビジネス・イノベーションを推進していく上で、このやり方では人材育成上の大きな効果を期待できないとガートナーは考えます。
イノベーションを推進できる人材のスキルは、そもそも従来のスキル・マップには存在しないため、従来の習慣を前提にした人材のスキルはミスマッチであり、イノベーションの変化のスピードへの対応も困難な状況です。こうした背景から、スキル・ベースのアプローチに代わって、今後は「プロファイル・ベース (*)」の人材戦略に移行する動きが広がり、2025年までに、デジタル・ビジネス・イノベーションを事業化段階まで到達させた企業の80%は、スキル・ベースからプロファイル・ベースの人材戦略に転換しているとガートナーは予測しています。
(*) プロファイル・ベースのアプローチ:ITスキルだけでなく、プロジェクトや領域ごとにチームに求められる人材の行動様式/働き方、ほかのメンバーや利害関係者との関係性、勤務場所、チームの特性や規模、必要なITスキル、ビジネス・スキル、さらには価値観や意識などを総合的に判断してIT人材像を特定するアプローチ
前出の足立は次のように述べています。「国内においては、日本企業の約8割以上のIT組織が慢性的なIT人材不足に直面しているとみています。世界中でIT人材の獲得競争が激化する中、日本企業のCIOはさらに大胆な施策を打ち出さなければならなくなっています。従来の常識と人材管理の定石に基づいた施策では、巨大デジタル企業との競争は言うまでもなく、デジタル戦略に本腰を入れ始めたグローバル企業に追随することすら困難になるでしょう」
IT人材に関しては、2025年には、日本のIT人材のうち5万人が、従来のIT人材市場に現れない「隠れた人材」(インビジブル・タレント) と化すとガートナーは予測しています。「隠れた人材」とは、デジタル・プラットフォームを通じ、国境を越えて居住国外の企業で働く人々を指します。エンジニア、デザイナー、プログラマー、テスト担当者、データ・サイエンティストなど、場所にかかわらず業務を行えるテクノロジ業界の多くの人材は、隠れた人材となる可能性があります。ガートナーでは、日本国内に既に約1万人の隠れた人材が存在し、今後5年以内にその数は5倍にまで増加すると予測しています。
さらに足立は次のようにも述べています。「技術者の中には、給与やポジションよりも自己成長をモチベーションの源泉と考える人も多いのですが、彼らを隠れた人材にさせる原因として、日本企業が、賃金の低さに加えて技術者への正当な理解と評価、ならびに技術者のニーズ (職場環境、テクノロジ導入、働き方) などの面での不満に対応できていないことも挙げられます。日本企業には、従来の人材採用方法のみならず、海外にも基盤を持つクラウドソーシング・コミュニティやタレント・プラットフォームを積極的に利用することが望まれます。また、従来とは異なる働き方の提供を検討し、柔軟で伸縮性に富んだIT組織を設計した上で、隠れた人材に適した雇用形態を導入することも必要となるでしょう」
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