量子コンピューティングとは何か?

量子コンピューティングは、さまざまなアプリケーションに変革をもたらす可能性を秘めています。 量子コンピューティングが組織の業務やビジネスにもたらすメリットについてご紹介します。

2024年11月5日

量子コンピューティングはまだ新しく、その実用化にはまだ時間がかかりますが、いずれはさまざまなビジネス上のメリットをもたらすでしょう

量子コンピュータは汎用コンピュータではありません。量子コンピュータは、従来型コンピュータで使用されている0と1の代わりに量子ビット(qubit)を使用して情報を表現します。その結果、これまでにない速度で複雑な計算を実行することができます。

したがって、量子コンピューティングの応用は、さまざまなアプリケーションに変革をもたらす可能性を秘めています。この点を踏まえ、経営陣は、どのような実用的な応用が可能か、また、そのメリットをいつ獲得できるかを検討する必要があります。

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量子コンピューティングやその他のテクノロジ・トレンドが、組織のデジタル戦略とどのように整合するのかをご紹介します。 さらに、それらを戦略立案に組み込み、長期にわたる成功を導くために必要なことについても解説します。

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量子コンピューティングとは?

ガートナーでは「量子コンピューティング」を次のように定義しています。

量子コンピューティングは、亜原子粒子の量子状態を操作する、従来とは異なるコンピューティング・テクノロジの一種です。粒子は、量子ビット (キュービット) で表される要素として情報を表示します。量子ビットは読み取られるまで、その2次元 (重ね合わせ) のあらゆる可能な値を表すことができます。量子ビットは、他の量子ビットとリンクさせることができ、この性質は「もつれ」と呼ばれまます。量子アルゴリズムは、もつれた状態でリンクされた量子ビットを操作し、このプロセスによって組み合わせが非常に複雑な問題に対処します。

出典: Gartner

量子ビットの主な特徴とは?

量⼦コンピュータの基本ビットである、量⼦ビットの特徴についてご説明します。

量⼦コンピューティングは、亜原⼦粒⼦ (電⼦、光⼦、イオンなど) の量⼦状態を基盤とし、量⼦ビット (qubit) と呼ばれる素⼦として情報を表現します。

前述したように、従来型コンピュータはバイナリ‧ビットを使⽤しており、バイナリとは「0か1かを⽰す」という意味になります。そして、量⼦ビットは、測定されるまでは0と1の状態を同時に⽰しているように⾒えることがあります。

量⼦ビットは他の量⼦ビットと相関を持つことも可能であり、この性質は「もつれ」と呼ばれます。量⼦アルゴリズムは、相関を持つ量⼦ビットを操作します。そうした量⼦ビットの状態は確定しておらず、もつれた状態にあります。

量⼦ビットは、測定されると解を決定します。つまり、量子コンピューティングは、1つの問題を量⼦ビットに変換してロードし、量子コンピュータの中核であるハードウェアをサポートした上でプロセスを実⾏して、複数の量⼦ビットの答えを読み取れるようにするものです。

基本的に、量⼦ビットを利⽤する⽬的は、解を表すバイナリ値を得ることにあります。もちろん、これには落とし⽳も存在します。本質的に量⼦ビットは1回しか測定できません。測定されると、重ね合わせ (0と1を同時に⽰しているように⾒える量⼦ビットの特性) 状態が解消し、1か0に収束します。つまり、量⼦ビットは、演算のたびにリセットしなくてはならない、ということになります。

量子コンピューティングの仕組み

量子コンピューティングは、以下のような量子力学の現象を利用しています。

1. 重ね合わせ(Superposition):
重ね合わせは、量子コンピューティングの基本的な現象です。量⼦コンピュータの基本ビットである量子ビット(qubit)は、測定されるまでは0と1の状態を同時に⽰しているように⾒えることがあります。これにより、1つの量子ビットで複数の状態を同時に表現し、並列処理を可能にします。
例えば、2つの量子ビットがあれば、00, 01, 10, 11の4つの状態を同時に表現できます。n個の量子ビットでは2のn乗の状態を同時に扱えるため、計算能力が指数関数的に増大します。

2. 量子もつれ(Quantum Entanglement):
量子もつれは、複数の量子ビットが相互に関連し合い、一方の状態を測定すると他方の状態が即座に決定される現象です。もつれた粒子は、どれだけ離れていても互いの状態に瞬時に影響を与えます。
本質的に量⼦ビットは1回しか測定できませんが、直観に反するもうひとつの物理現象である「もつれ」によって、量子ビット同⼠を相関させることができます。つまり、1つの量⼦ビットに対する操作が、もつれた状態にある他の量⼦ビットにも作⽤するということです。
このようにもつれた状態は、量⼦ビット間の距離にかかわらず維持されます。そのため、この量子もつれを利⽤して、量子コンピュータ以外の量子通信や量子暗号といったテクノロジの応用も考えられています。

3. 量子干渉(Quantum Interference):
量子干渉は、量子状態の波動性を利用した現象です。量子回路では、量子干渉を利用して望ましい結果を増幅させたり、不要な結果を打ち消したりすることができます。これにより、正しい解答を得る確率を高めることができます。

4. 量子トンネル効果(Quantum Tunneling):
量子トンネル効果は、量子アニーリングなどの特定の量子コンピューティング手法で利用されます。粒子が古典力学では越えられない障壁を通過できる現象を利用して、最適解を効率的に見つけ出すことができます。

従来のコンピューティングと量子コンピューティングとの違いとは?

量子コンピューティングは、従来型コンピューティングとまったく異なります。量子コンピューティング・スタックのほぼすべてのレイヤは、従来のレイヤとは根本的に異なります。

量子コンピューティング・スタックのレイヤと従来型コンピューティングのレイヤの比較は以下の表の通りです。

しかし、量子コンピュータは古典的なコンピュータに取って代わるものではなく、現在の古典的なコンピュータでは解決できない特定の問題に使われるものです。量子コンピューティングは古典的なシステムをアップグレードするものではなく、問題を解決する全く新しい方法と言えます。

量子コンピューティングのビジネスへの影響とは何か?

組織は、量子コンピューティングで解決できる問題、できない問題について包括的かつ現実的な理解を深めることで、量子コンピューティングを活用した長期的なビジネスモデルを確立できます。量子コンピューティングのビジネスにおける可能性には以下のようなものがあります。

  • シミュレーション:量子コンピュータは、創薬や化学物質の発見に不可欠な原子や分子の相互作用を研究するためのシミュレーションを実行できます。これにより、研究開発プロセスが加速し、新製品の市場投入までの時間が短縮されます。
  • データ分析:量子アルゴリズムは従来のデータを分析し、識別精度を向上させ、隠れたパターンを特定することで、より深い洞察とより優れた意思決定能力を提供します。
  • 持続可能なテクノロジ:量子コンピューティングは、バッテリーの化学反応や動作の正確なシミュレーションを可能にし、電気自動車のバッテリーの性能向上につながります。また、燃料電池や二酸化炭素の回収技術については、技術的/経済的な両方の側面から実現可能性を高めることができます。

量子コンピューティングのユースケース

前述したように量子コンピュータが従来型のコンピュータに取って代わることはないですが、以下のような領域でディスラプションを起こし、従来の手法では実現不可能な分野に結果をもたらす可能性があります。

  • BQP (Bounded-error Quantum Polynomial-time)* 問題の一部のクラス

  • リアルな量子シミュレーション (材料科学、化学シミュレーション、創薬において使用)

  • 暗号化 (セキュリティ)

*BQP: 多項式時間量子アルゴリズムで確率2/3以上で判定可能な問題のクラス

量子コンピューティング導入のステップ

量子コンピューティングの可能性は計り知れないものですが、導入には慎重なアプローチが必要です。以下に、量子コンピューティング導入を成功裏に進めるために重要なステップを説明します。

1. テクノロジを理解する:
量子コンピューティングの基本について、チームのメンバー全員が学んでいく必要があります。 量子コンピューティングの特性、応用の可能性、限界、解決可能な課題の種類を理解します。

2. 小さく始めてユースケースを特定する:
従来型コンピューティングでは解決が困難なものの、量子コンピューティングを利用すれば解決できる可能性のある具体的なビジネス上の問題を特定します。最適化、シミュレーション、データ分析など、影響の大きい分野に焦点を絞ります。技術がまだ発展途上であることを踏まえ、まずは小規模に始めて、必要に応じて規模を拡大していくのが賢明です。

3. 専門家と協力する:
必要な技術と専門知識を提供できる量子コンピューティングのベンダーや専門家と提携します。多くの実績あるテクノロジ・プロバイダーやテック企業が量子コンピューティング・システムやサービスを開発しています。

4. パイロット・プロジェクトを立ち上げ、期待値を管理する:
特定したユースケースにおける量子コンピューティングの実現可能性と影響をテストします。これらのプロジェクトでデータを収集し、アプローチを洗練させ、価値を実証します。 留意すべき点は、量子イノベーションは長期的な取り組みとなります。そのため、達成可能なマイルストーンを設定し、段階的な進歩に備える必要があります。

5. インフラに投資する:
量子コンピューティングには、複雑なハイブリッド・エコシステムが必要であり、多くの場合、特殊なハードウェアやソフトウェアが関わってきます。量子コンピューティングに必要なインフラ、例えばサービスとしての量⼦コンピューティング(QCaaS)や量子要素の管理・制御を行う高性能な従来型コンピュータなどに投資します。

6. スキルを向上させる:
量子コンピューティングに必要なスキルを持つチームを構築しましょう。そのためには、新たな人材を採用したり、トレーニング・プログラムを通じて既存の従業員のスキルアップを図ることも必要になるかもしれません。

7. モニタリングと変化への対応を図る:
量子コンピューティングの取り組みの進捗を継続的に監視します。パイロット・プロジェクトの結果と量子コンピューティング技術の進歩に基づいて戦略を適応させる準備をしておきます。

量子コンピューティングに関する用語集

量子ビットとは?

量子ビットは量子コンピューティングにおける情報の基本単位です。従来型コンピュータはバイナリ・ビットを使用しています。バイナリとは「0か1かを示す」という意味です。量子ビットは、測定されるまでは0と1の状態を同時に示しているように見えることがあります。これにより、1つの量子ビットで複数の状態を同時に表現できます。

量子ビットは他の量子ビットと相関を持つことも可能であり、この性質は「もつれ」と呼ばれます。量子コンピュータは、これらの量子ビットの特性を活かして、特定の問題に対して従来のコンピュータよりも高速に計算を行うことができ、従来のシステムでは処理できないユースケースにも対応できる可能性を秘めています。


量子ビットの重ね合わせとは?

量子ビットの重ね合わせとは、1つの量子ビットが同時に複数の状態(通常は「0」と「1」)を取ることができる性質を指します。これは従来のビットが「0」か「1」のどちらか一方の値しか持てないのとは対照的です。重ね合わせは量子コンピュータの強力な計算能力の源ですが、その制御と維持には高度なテクノロジが必要です。


量子ビットのもつれとは?

量子ビットは他の量子ビットと相関を持つことも可能であり、この性質は「もつれ」と呼ばれます。量子コンピューティングは、1つの問題を量子ビットに変換してロードし、ハードウェア (量子コンピュータの中核) をサポートした上でプロセスを実行して、複数の量子ビットの答えを読み取れるようにするものです。基本的に、量子ビットを利用する目的は、解を表すバイナリ値を得ることになります。

もちろん、これには落とし穴も存在します。本質的に量子ビットは1回しか測定できません。測定されると、重ね合わせ (0と1を同時に示しているように見える量子ビットの特性) 状態が解消し、1か0に収束します。量子ビットは、演算のたびにリセットしなくてはなりません。

ここで登場するのが、直観に反するもう1つの物理現象である「もつれ」です。もつれによって、量子ビット同士を結合させることができるため、1つの量子ビットに対する操作が、もつれた状態にある他の量子ビットにも作用します。このようにもつれた状態は、量子ビット間の距離にかかわらず維持されます。これは、量子力学の驚くべき帰結です。もつれを利用して、アルゴリズムを開発できます。こうしたアルゴリズムは、量子コンピュータ内の量子ビットの解を決定して測定することを可能にします。


量子ビットのコヒーレンスとは?

量子ビットのコヒーレンスは、量子コンピューティングにおいて非常に重要な特性です。コヒーレンスとは、量子ビットが量子重ね合わせ状態を維持できる能力を指します。これは量子情報を保持し、量子計算を実行するために不可欠です。コヒーレンスが長いほど、量子ビットは外部からの擾乱に対してより安定であり、より複雑な量子操作が可能になります。

逆に、このコヒーレンスに関する課題もあります。量子システムが周辺環境から完全に隔離されておらず、そうした環境に接触していると、時間と共にコヒーレンスが崩壊します。このプロセスは、量子デコヒーレンスと呼ばれます。量子アルゴリズムは、コヒーレンスがある場合にのみ実行されます。これまで実現されているのは、非常に短いコヒーレンス時間であり、これをさらに延ばす努力が続けられています。


ポスト量子暗号とは?

耐量子暗号とも呼ばれるポスト量子暗号 (PQC) は、従来の攻撃と量子コンピューティングを用いた攻撃の両方に対する保護を提供するように設計されたアルゴリズムです。PQCは、今後10年間で弱体化する既存の非対称暗号化を置き換え、既存の古典的な暗号化手法とプロセスを過去のものとします。

暗号に関連する量子コンピュータ (CRQC) の出現によって、複雑な暗号が解読できるようになる可能性があります。したがって、量子コンピュータが実現する前に対策を講じる必要が出てきます。PQCは、量子コンピュータでも解くことのできない強力な暗号保護レベルを提供します。

PQCを実現するアルゴリズムが実用段階に入り始めているため、組織は、その評価を開始する必要があります。


ゲートモデル  (ゲート型) の量子コンピュータとは?

ゲートモデル(量子回路モデル)の量子コンピュータは、量子ビットと量子ゲートを用いて計算を行う量子コンピュータの一種です。量子ゲートの組み合わせで、任意の量子演算を近似的に実現できます。しかし、ゲートモデルの量子コンピュータにも課題があります。

例えば、ユニバーサル・ゲート・モデルの量子コンピュータを、実用的かつ有用なサイズまでスケーリングするには、量子エラー訂正スキームを組み込む必要があります。量子コンピュータが100~300の論理量子ビットを備えるようになると、意味のある計算を行うことができると考えられています。ただし、一部の複雑な問題は、さらに多数の量子ビットを必要とします。


量子アニーラとは?

NISQ (Noisy Intermediate-Scale Quantum) が現在のデジタル・コンピュータに似ているとすると、量子アニーラはアナログ・コンピューティングに相当します。量子アニーラ・マシンは、通常、最適化やクラスタリングの分野において、限られた範囲の問題のみを解決します。量子アニーラは汎用的ではありませんが、ビジネス、最適化、科学に関する既存の問題に極めて有用となり得ます。重要なポイントは、顧客の問題を、量子アニーラが信頼性の高い方法で迅速に解決できるタイプに対応付けることです。

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