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SAMPLE RESEARCH

サンプル・リサーチ

ポストモダンERP戦略においてSaaSアプリケーションを活用し、
ユーザーの利用拡大とプロセス改善を図る

アプリケーション (APP) /APP-14-74
Research Note
N. Rayner
掲載日:2014年12月24日/発行日:2014年7月15日

本リサーチ分析レポートのテーマに関心をお持ちの方は、2015年3月9日(月)・10日(火)に開催する 「エンタプライズ・アプリケーション & アーキテクチャ サミット 2015」 のページを是非ご覧ください。(イベント終了後も開催実績としてご覧いただけます)


ERPシステムを管理するアプリケーション・リーダーは、ユーザビリティの向上と新機能の迅速なデリバリを求めるユーザーからの要求への対応に苦慮している。ハイブリッドERP戦略の中でSaaSアプリケーションを活用すれば、ERPイニシアティブのビジネス目標を損なうことなく、ユーザーによる利用の拡大と効率の改善を促進できる。


要約


主要な課題

  • ERP/アプリケーション・リーダーの多くは、多くの分野においてユーザーの不満や急速に変化するビジネス要件への対応に苦慮しており、この点がERPイニシアティブのビジネス目標を損なう恐れがある。
  • ERPスイートのモジュールをさらに購入するという従来のアプローチは、費用と時間がかかるにもかかわらず、ユーザーのニーズを満たせない可能性がある。
  • こうした障害を乗り越えるために、専業ベンダーからサービスとしてのソフトウェア(SaaS)アプリケーションのライセンスを取得することで、IT主導のERP戦略を回避する事業部門ユーザーが増えている。その結果、データやプロセスが断片化された、新世代のサイロ型アプリケーションが生じている。

推奨事項

  • SaaSアプリケーションをハイブリッドERP戦略で導入することによってどのようなメリットが得られるかを理解し、SaaS専門アプリケーションがコアERPを補完し得るアプリケーションの分野と機能を特定する。
  • IT部門が明確に把握していないところで、ユーザーがSaaSアプリケーションを利用することで、「シャドー」ハイブリッド化が既に進んでいないかを確認する。
  • ハイブリッドERP戦略におけるSaaSアプリケーションは、主に記録システムとしての機能に重点が置かれる可能性があるものの、差別化システムとして管理する。
  • ERPベンダーがSaaS専業ベンダーを買収した場合には、自社のERP戦略への影響を評価するためにERPベンダーのロードマップを注視する。


目次

  • はじめに
  • 分析
    • ハイブリッドERP戦略においてSaaSアプリケーションがどのようなメリットをもたらすかを理解する
    • 「シャドー」ハイブリッド化を特定するためにERP環境を点検する
    • SaaS専門アプリケーションがコアERPを補完し得るアプリケーションの分野と機能を特定する
    • SaaSアプリケーションを (記録システムであったとしても) 差別化システムとして管理する
    • ERPベンダーのロードマップと市場の展開を注視する
  • ケーススタディ:企業資金管理アプリケーション

  • 推奨リサーチ


はじめに

ガートナーでは、ERP市場とベンダー環境に、引き続き大きな変化を確認している。調達から支払い、タレント・マネジメント、旅費管理といった特定の領域やアプリケーション分野に重点を置いた専業ベンダーによるSaaSアプリケーションが登場していることで、ユーザーはそうした領域の機能をSaaSベンダーから取得し、IT部門を完全に回避できるようになった。そのため、ERPスイートはまったく混沌とした状態にある。さらに、ベスト・オブ・ブリードによる従来の小規模なオンプレミス型専業ベンダーとは異なり、SaaSのデリバリ・モデルでは比較的小規模なベンダーでも製品を世界的に販売し、サポートすることが容易になっている。SaaS専業ベンダーは、もはや国や地域に限定された狭い市場に縛られないため、グローバルな大規模ERP実装の多くに浸透している。しかし、このアプローチは、短期的には一部のユーザーを喜ばせるかもしれないが、管理されない形で続けば、データやプロセスが断片化された新世代のサイロ型アプリケーションが生じる。それは、ERPスイートが出現する前の「伝統的な」ベスト・オブ・ブリード環境と同様に、統合上の悪夢を招く恐れもある。

その結果、ERP/アプリケーション・リーダーは、単一のERPスイートではなく、オンプレミス型とSaaSの双方から成るアプリケーション・ポートフォリオを管理しなければならなくなっている。これが、クラウド時代のERPの現実である。ガートナーではこれを「ポストモダンERP」と定義しており、すべてのアプリケーション・リーダーやERPストラテジストは、ERPのこうした進化に備える必要がある(「2013年以降のポストモダンERPの戦略的ロードマップを策定する」APP-13-152、2013年10月18日付参照)。ほとんどの企業において短期的な優先事項となるのは、ハイブリッドERPという現実、すなわちクラウド・サービスとして提供される機能コンポーネントもあれば、オンプレミスで維持されるものもあるという現実に、積極的に対応することである。ほとんどの企業は、主として記録システムに重点を置いたERP機能のコアをオンプレミスに残す。次に、コンポジット・アプリケーションとパッケージ型SaaSアプリケーション(サードパーティ・ベンダーまたはERPベンダーが提供するもの)を組み合わせて、このコアを強化する。しかしながら、統合スイートとSaaS専門アプリケーションとの間で適切なバランスを取る必要がある。こうしたベスト・プラクティスは、ERP/アプリケーション・リーダーがハイブリッドERP環境の一環としてSaaSアプリケーションを取り入れる方法を理解する上で役立つ。

本リサーチノートでは、パブリックSaaSの意で「SaaS」という用語を用いる (「The Right Definition of SaaS Will Reduce Its Business Value Uncertainties」参照)。しかし、パブリックSaaSのメリットの多くをエンドユーザーに提供するクラウド・ベース・アプリケーションには、さまざまなものがある。本リサーチノートと関連がある主な属性は、以下のものである。(1)ソフトウェアに、ユーザー間で共有される共通のコードベースがある、(2)オンプレミスでのインストール/管理に必要な技術的インフラストラクチャが最低限のものである、(3)ソフトウェア・ベンダーがアップグレードやパッチをリモートで適用する。これらはパブリックSaaSの固有の属性であるが、他のクラウドのデリバリ形態でも提供されている可能性がある(「最適なクラウド・ビジネス・アプリケーションの選定方法」SOR-13-47、2013年9月13日付参照)。

分析


ハイブリッドERP戦略においてSaaSアプリケーションがどのようなメリットをもたらすかを理解する

ERPイニシアティブがERPベンダーのスイートを重視していれば、アプリケーション・リーダーがERPの範囲内とされる領域において、ユーザーによるSaaSアプリケーションの採用を許可したがらないとしても無理はない。そのため、ハイブリッドERP戦略に移行する第一歩は、このアプローチが状況次第では次のようなビジネス・メリットをもたらす理由を理解することである。

  • ユーザーの利用を促進する:多くのERPイニシアティブでは、ERPシステムを毎日トランザクション系の仕事で利用するパワー・ユーザー以外にも幅広く利用してもらうことに苦戦している。これは、ERPスイートがコアの記録システムから構築されており、一時的なユーザーやドメイン・スペシャリスト(調達のプロフェッショナル、企業資金管理マネージャーなど)よりも、ERPのパワー・ユーザーに最適なユーザー・インタフェースとなっているためである。一方、SaaS専門アプリケーションは初めからWeb展開に適した形で設計され、一時的なユーザーやドメイン・スペシャリストに適したユーザー・インタフェースとなっているため、この課題を克服できる。これは、速やかに幅広いユーザーによる利用を実現できることを意味する。
  • ビジネス・プロセスの改善をより迅速に実現する:ERPのコア分野以外のプロセス(間接調達や資金管理業務)の多くは、依然として極めて断片化され、非効率的であり、手作業による処理に依存している。ERPスイート・ベンダーの多くが、これらの分野に対応したモジュールを提供しているものの、専業ベンダーが提供するような領域固有の機能をしばしば欠いている。SaaSアプリケーションを利用するとビジネス・プロセス改善の範囲が拡大されるだけでなく、ERPスイートで当該モジュールをロールアウトする場合に比べて、より迅速に改善を実現できる。また、同様のアプリケーションをまだ実装していない他社に対して「先進的な」優位性をもたらし、差別化にもつながる。しかし、同じ (あるいは類似の) SaaSソリューションを採用する企業が次第に増えれば、先進的な差別化の機会は減る。
  • 差別化を可能にする:SaaSは、アプリケーションを利用するあらゆる組織のための共有ビジネス・アプリケーション・コードと共通データ・モデルに基づいている。これは、標準化された「必要十分な」ビジネス・プロセスを「現状のまま」採用した場合、SaaSアプリケーションが一般的に最大の価値を提供することを意味する (「Standardize Business Processes and Implement Governance to Maximize Business Value of SaaS ERP」参照)。したがって、ほとんどの場合、SaaSは記録システムに最も適している。しかし、SaaSアプリケーションは、固有の方法で設定を変更することができ、それが差別化をもたらす。SaaS専門アプリケーションの多くは、ERPスイートの中核的な大量トランザクション処理エンジンを補う、より知識集約的なプロセス(契約ライフサイクル管理、E-Sourcingなど)に適した最新のモデル駆動型アーキテクチャを備えている。これは、オンプレミス型ERPアプリケーションで通常必要となるITの専門的スキルにユーザーが依存することなくアプリケーションを設定し、差別化されたプロセスを作成できることを意味する。
  • ビジネス・プロセスにおけるユーザーの革新を実現する:一般的に記録システムやERPスイートの変化の速度は遅い。この点は、差別化につながらない多くのビジネス・プロセスにとっては好都合である。しかし、SaaS専業ベンダーがターゲットとしている領域の多くは、「力の結節」(Nexus of Forces:クラウド、インフォメーション、ソーシャル、モバイルの強固 な結び付き)の影響により、テクノロジとプロセス双方の観点から急速に変化している。SaaSアプリケーションで新たな機能が導入されるスピードと、その設定に対するユーザーのコントロールとが相まって、次に予定されているERPの拡張サイクルを待つことなく、新しいテクノロジや機能による革新の機会が拡大している。

「シャドー」ハイブリッド化を特定するためにERP環境を点検する

多くの企業では、IT部門の知らないうちに、ユーザーが既にハイブリッドERP戦略を採用している。これは、「このシステムは当社のテクノロジ標準に準拠しておらず、インフラストラクチャをサポートできないため、導入してはならない」というIT部門がよく唱える異議がSaaSには当てはまらないため、SaaSベンダーが巧みにエンドユーザーに直接販売し、IT部門を介さないからである。ユーザーは、「実際の」仕事はSaaSアプリケーション上で行い、ERPには単に必要なデータだけ再入力している。したがって、ERP/アプリケーション・リーダーは、ユーザーが既にSaaS専門アプリケーションを利用し、ERPシステムを「無視」していないかを探るために、ERPシステムの境界付近で使われているアプリケーションを棚卸しすることで、「シャドー」ハイブリッド化を特定すべきである。棚卸しは、IT部門がビジネス部門のユーザーとハイブリッドERP戦略について話し合い、より良い仕事上の関係を築く機会となる。ただし、ハイブリッドERPをサポートするためには、IT部門とビジネス部門間の協力の仕方を変える必要がある。

モノリシックな単一ベンダーERP戦略を掲げたある大規模企業からガートナーに寄せられた、当該ベンダーからのモジュールをどのようにロールアウトすべきかという問い合わせが、このアプローチの好例である。対話の中でユーザー部門が既にいくつかのSaaS専門アプリケーションを導入していることが明らかになった。例えば、採用や調達などに関するものだが、本来これらの分野はERPシステム(財務、人的資本管理、調達に対応)に含まれている「はず」であった。ERPチームは、ユーザー部門がこれらのサービスを利用していたことを認識していたものの、ERPシステムの一部とは見なしていなかったため、おおかた無視していた。中央のERPシステムに渡される主なマスタ・データの一部が検証されていなかったことによって、これらの「シャドー」システムで問題が発生し始め、深刻なデータ品質の問題を招いた。ハイブリッドERPの概念とペース・レイヤについてガートナーと討議した後、ERPチームはベンダー中心のERP戦略から、より先を見越したハイブリッドERP戦略に移行する必要があることに同意した。最終的にこのERPチームは、「シャドー」システムをハイブリッドERP戦略の一環として戦略的に取り入れるべきか、それとも代替アプローチ(ERPベンダーが最近取得したSaaSアプリケーションの評価を含む)を採用すべきかについて、ユーザー部門と共に探ることになった。


SaaS専門アプリケーションがコアERPを補完し得るアプリケーションの分野と機能を特定する

ハイブリッドERP戦略における主要な課題は、コアERPスイートによって管理するのが最適なアプリケーション分野と機能は何か、さらにはコアERP (通常オンプレミスだがホスト型の場合もある) をSaaS専門アプリケーションによって強化することでメリットが得られそうな分野はどこかを特定することである。企業は、ビジネス・ケイパビリティ・モデリングとペース・レイヤによるアプリケーション戦略の原則を組み合わせて活用することで、ERPスイートが解決策として好ましいコア記録システムを特定すべきである (「How to Develop an ERP Strategy」参照)。このアプローチでは、ERP戦略の範囲に収まる可能性がある差別化や革新の領域も特定される。SaaSソリューションの機能と設定ツールが当該ソリューションに固有の機能を提供するものであれば、これらの領域はSaaS専門アプリケーションを導入する有力候補となる。

なお、この作業の一環として、SaaSが他のメリットをもたらす可能性のある分野も特定すべきである。例えば、より幅広いユーザーによる利用やプロセス自動化の迅速な提供といったメリットである。ERPのロールアウトがユーザーの抵抗に遭ったことのある機能を探し、SaaS専門アプリケーションを使用することで、ユーザーによる採用とSaaSによるメリットの実現を効果的に促進できないかを見極める。さらに、ERPプロジェクトの多くは、「フェーズ2」の成果物、すなわちコアERP機能の後に実装されるものとして定義されるアプリケーション領域をいくつか含む。これらの領域は断片的で手作業によるものが多く、ERPスイートのモジュールを追加的にロールアウトすることで対応されるとしばしば想定されている。しかしながら、多くの場合、SaaS専門アプリケーションの方がソリューションとして適している可能性がある (後述するケーススタディを参照)。

ERPスイートのモジュールの代わりにSaaSアプリケーションを使用する場合、明らかなトレードオフとなるのは、統合、プロセス整合性、およびマスタ・データの一貫性である。したがって、SaaS専門アプリケーションの潜在的なメリットに対するこうした課題の規模を評価しておくことが重要となる。統合とプロセス整合性はそれほど問題とならない場合もある。例えば、間接調達をサポートするために導入される調達から支払いまでのSaaSソリューションが行うのは、承認された請求書を支払いのためにコアERPシステムの買掛金モジュールに渡すことだけである。このプロセスは、簡単なバッチ・モードでのポイント・ツー・ポイント統合で実現できる。マスタ・データの一貫性には課題があるものの、些細なものでしかない可能性がある。例えば、間接調達に用いられるサプライヤーや資材は、直接調達で用いられるもの (ERPシステムで管理される) とはほとんど、あるいはまったく共通点がない場合がある。

クラウド・サービスとして提供される事前定義されたアプリケーション間の統合サービスが次第に増え、サービスとしての統合プラットフォーム (iPaaS) の成熟度が増すことで、ハイブリッドERP環境での統合を管理する戦略的な選択肢がさらに増すと考えられる(「クラウド/オンプレミスのハイブリッドERP環境で統合を管理する際のベスト・プラクティス」APP-13-125、2013年8月23日付参照)。


SaaSアプリケーションを(記録システムであったとしても)差別化システムとして管理する

差別化されたビジネス・ニーズを支援するSaaS専門アプリケーションを導入するには、自明ではない独自の方法でそれを設定可能であるか、または基盤プラットフォーム(多くのSaaSアプリケーションではサービスとしてのプラットフォーム[PaaS])を使用して拡張できる必要がある。このため、SaaS専門アプリケーションは、明らかに差別化システムのレイヤに位置付けられる。差別化システムは、記録システム (コアERP機能のほとんどが該当)よりも変化が速く、記録システム(変更の要求が通常6〜12ヵ月の周期で処理される)よりも頻繁な変更を求めるユーザーのニーズに対応する必要がある。ライフサイクルは差別化システムの方が短い場合があり、記録システムでは10年以上であるのに対し、通常2〜5年である(「アプリケーションのペース・レイヤ・モデル:ガバナンスと変更管理」APP-11-83、2011年8月10日付参照)。

しかしながら、ハイブリッドERP戦略には、差別化システムというよりも記録システムであるSaaS専門アプリケーションが含まれる場合がある。通常、これらはユーザーによる利用や、改善された(ただし、ビジネス・プロセスの迅速な採用を促すために導入される。こうしたアプリケーションはペース・レイヤリングの観点から見た場合、理論上は記録システムに当たるものの、SaaSのデリバリ・モデルではガバナンスの観点からより微妙な扱いが可能である。アップグレードはIT部門のサポートを必要とすることなくSaaSベンダーによって適用され、ユーザーは好きなときに設定を変更できる。運用コストとしての資金調達モデルにより、アプリケーションは永久ライセンス・コストの減価償却を必要とせず、2〜5年という時間枠内にリプレース可能である。したがって、ガートナーでは、主に記録システムの機能をサポートしている場合でも、ハイブリッドERP戦略におけるSaaS専門アプリケーションを差別化システムとして管理することを推奨している。

ハイブリッドERP戦略の採用後は、定期的なERP戦略のレビューにSaaSアプリケーションのガバナンスの評価も含めるべきである。SaaSアプリケーションとそれが支援するプロセスが確立されて広く導入され、長期的なソリューションと見なされる場合、ガバナンス・モデルは記録システムに切り替える方がよい。そのためには、コアERP機能とのより密接な統合といった統合戦略の見直しが必要な場合もある。さらに、ERP戦略のレビューでは、ERPベンダーが提供する最新バージョンのモジュールにおいて、必要な機能がスイートの一環として提供されているかを評価すべきである。提供されている場合、ERPリーダーは、SaaS専門アプリケーションの代替としてこれらの機能を使用すべきかをビジネス部門のユーザーと共に判断する。


ERPベンダーのロードマップと市場の展開を注視する

ハイブリッドERPの現実は、ERPベンダーだけでなくエンドユーザー組織にも影響を与えている。ERPベンダーではスイート製品の要素がユーザビリティの課題に直面し、SaaS専業ベンダーに後れを取っている。このため、すべてのアプリケーション領域に1つのスイートで対抗しようとするのではなく、SaaS専業ベンダーを買収し、自社のポートフォリオに追加するERPベンダーも存在する。例えば、OracleはTaleoを買収し、TaleoのソリューションをOracle Fusion Applicationsと共に、既存のEP製品(Oracle E-Business Suite、Oracle PeopleSoft、Oracle JD Edwards)とのハイブリッド展開で提供している。また、SAPはSuccessFactorsとAribaを買収し、SAP ERPを強化するためにこれらを提供している。このような動向の意味を理解することが重要である。自社がハイブリッドERP戦略を採用する選択を下さなくても、ERPベンダーからそれを強いられる可能性がある。したがって、こうした買収が行われた際にはERPベンダーのロードマップを理解し、注視することが重要になる。買収されたSaaSアプリケーションとコアERPシステムとの統合が段階的に行われ、現行の統合戦略に影響を与える新たなテクノロジが用いられる可能性もある。これらの製品間の統合は、設計型スイートに比べて疎結合となる。さらに、既存ERPスイートの一部の要素が、取得された製品で置き換えられることもあるため、それが起きるのかどうか、起きるのであればいつかを特定する必要がある。ERPベンダーが、取得したSaaSアプリケーションに開発の重点を移した場合、それが自社の要件にとって最適なものになると決め込んではならない。必ず他のSaaS専業ベンダーのソリューションと比較してこれを評価する必要がある。

ハイブリッドERPは、ポストモダンERPの概念におけるシナリオの1つである。最終的には、より多くのERP機能がクラウドに「切り替わる」と予想され、これらの展開を注視し、自社のERP戦略への影響を評価することが重要になる。例えば、SaaS型タレント・マネジメントの成功により、クラウドでの人的資本管理 (HCM) 機能が促進された結果、HCMは統合ERPスイートの一部と見なされることが少なくなってきている。NetSuiteやFinancialForce.comなどのSaaS ERPベンダーは、開発した製品と取得した製品を、密に作り込まれた統合ではなく、PaaS経由で結び付けた疎結合型のERPスイートを構築している。多くの企業にとって、ハイブリッドERPは最終的な状態ではなく、完全なクラウドERP環境への移行における1つの過程である。


ケーススタディ:企業資金管理アプリケーション

企業資金管理アプリケーションは、ERP戦略の範囲内でありながら、従来はベスト・オブ・ブリードのオンプレミス型ソリューションとされてきたアプリケーション領域の代表例である。1980〜1990年代、ERPベンダーは基本的な資金管理機能しか提供していなかった。その結果、資金管理ワークステーションと呼ばれるベスト・オブ・ブリードのスタンドアロン・アプリケーションが登場した。その名が示すとおり、これはPCまたはサーバにインストールされ、ERPシステムの財務モジュールとの統合は非常に限られていた (またはまったく行われていなかった)。しかしながら、企業の資金管理機能は他の財務機能と密接な関係があるため、2000年代には、いくつかのERPベンダーが自社ERPスイートの財務モジュールと統合された企業資金管理アプリケーションを開発した。同時に、資金管理ワークステーションは、より包括的なオンプレミスの企業資金管理アプリケーション・スイートへと進化した。現在、こうしたソリューションのほとんどはホスト型またはプライベート・クラウド環境で提供されているが、新しい世代のSaaS専業の資金管理ベンダーも出現している。

多くの企業は、ERPスイートの財務モジュールにかかわる財務業務を、数年かけて集中化/標準化してきたが、現在、資金管理業務に目を向けている。ERP/アプリケーション・リーダーは、資金管理機能をERPベンダーからロールアウトすることがその答えだと考えているが、以下に示すガートナーの顧客との対話から、ハイブリッドによるアプローチの方がメリットは大きい可能性があることが明らかになっている。

  1. サービス中心のグローバル企業:ERPスイートを基盤とするグローバルな財務/調達システムを実装したある企業は、次に企業資金管理機能を自動化したいと考えた。これらの処理は主に手作業による表計算ベースのもので、いくつかの分散したレガシー・システムによって行われていた。この企業は、資金管理業務の集中化/自動化により、運転資本の管理の改善や、事業運営に対する適切な財務サポートの提供といった大きな可能性を感じていた。ERPベンダーから提供された企業資金管理機能を検討し、その機能がニーズに適している可能性があると考えた。しかしながら、以下の理由により、SaaS型の企業資金管理アプリケーションを実装することにした。
    • オンプレミスERP資金管理モジュールのライセンスの費用が非常に高額であった。ロールアウトはかなり複雑でリソースを要するため、ビジネス・プロセスの改善までには時間がかかると予想された。
    • ERP資金管理モジュールは、専門的なコンサルティング・スキルを必要とし、人材不足のため高額であった。SaaSアプリケーションは、SaaSベンダーのリモート・サポートを通じてユーザーが容易に設定できる。
    • IT部門が「リーン」モデルの下で運営されていたため、追加のERPモジュールのロールアウトと、既存のERPテクノロジ環境に対するその影響をサポートする処理能力がなかった。SaaSのアプローチは、必要なITサポートが極めて少ないことを意味していた。
    • 評価チームはERP資金管理モジュールの方がおそらく機能面では適していると感じていたものの、資金管理部門のユーザーたちは皆、SaaSソリューションのユーザビリティの方に満足していた (ERPシステムを定期的に使用している人はいなかった)。したがって、SaaSソリューションのロールアウトの方が、ERPの資金管理モジュールよりもユーザーによる利用がはるかに進むと考えられた。
  2. 米国の中堅企業:この企業では、手作業による表計算ベースの資金管理業務を自動化する必要があった。ERPベンダーからは適切な機能が提供されなかったため、この領域に関する充実した機能を提供するオンプレミスとSaaS双方のソリューションを評価した。ユーザーが、IT部門の技術サポートに依存することなく、アプリケーションの利用と運用を管理したいと希望したため、同社はSaaSアプリケーションを採用することにした。企業資金管理の担当者は、事業ニーズに迅速に対応できるソリューションを求めており、IT部門のTo Doリストにたまに変更を申請するような、従来のERPサポート・モデルでは、資金管理プロセスに望まる革新のペースに対応できないと考えた。また、SaaSベンダーの方が、資金管理プロセスの将来的な革新に対する適切な継続的サポートや、新たな規制への迅速な対応を行えると考えた。検討したSaaSベンダーは資金管理に特化しており、この領域に関する深い知識があった一方、ERPベンダーでは資金管理の優先順位が低い扱いとなっていた。資金管理機能のユーザーは、SaaSベンダーとの関係をIT部門と共同で構築し、契約交渉を行ったが、IT部門は日々のシステム管理にはほとんど関与していない。資金管理プロセスはSaaSアプリケーション内で「自己完結」しており、ジャーナルのファイル転送が日次で1件行われるだけであり、統合は簡潔である。

推奨リサーチ

  • 「2013年以降のポストモダンERPの戦略的ロードマップを策定する」
    (APP-13-152、2013年10月18日付)
  • The Right Definition of SaaS Will Reduce Its Business Value Uncertainties」
  • 「最適なクラウド・ビジネス・アプリケーションの選定方法」(SOR-13-47、2013年9月13日付)
  • 「How to Develop an ERP Strategy」
  • 「クラウド/オンプレミスのハイブリッドERP環境で統合を管理する際のベスト・プラクティス」
    (APP-13-125、2013年8月23日付)
  • 「アプリケーションのペース・レイヤ・モデル:ガバナンスと変更管理」
    (APP-11-83、2011年8月10日付)

根拠

本リサーチノートは、2013年と2014年にガートナーに寄せられた問い合わせ、2013年におけるSaaS専 業アプリケーション・ベンダーについての照会時に行われた顧客との数多くの対話に基づくものである。



(監訳:本好 宏次)


APP: APP-14-74 (G00262375)
※本レポートの無断転載を禁じます。


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